クォーツショック前夜である1960年代の後半、時計界において水面下で繰り広げられていたのは、自動巻きクロノグラフの開発競争であった。これにはスイスの有力ブランドはもちろん、日本のセイコーも参戦し、各社いち早い完成を目指していた。
そして69年、三つの自動巻きクロノグラフムーヴメントが登場する。
同年3月、ホイヤー・レオニダスら4社連合が共同開発したクロノマチック(Cal.11)。これに続き5月にはセイコーが自動巻きクロノグラフムーヴメントCal.6139を搭載したモデルを“発売”(製品化としてはセイコーが最も早かった)。そして9月にはゼニス社が当時傘下にあったモバード社と共同で開発した“エル・プリメロ(Cal.3019PHC)”が発表されたのである。いずれも高い完成度を誇り傑作と名高いムーヴメントだが、今回はそのなかでもエル・プリメロにフォーカスしたい。


このエル・プリメロという名称はスペイン語で“ナンバーワン”を意味している。機械式の振動数として毎秒5~6振動が一般的であった当時、エル・プリメロは10振動(毎時3万6000振動)という高振動化を両立させた点が大きな特徴だ。このことから世界初の“ハイビート自動巻きクロノグラフムーヴメント”として、その名を世界に知らしめたゼニスだったが、その後大きな転機が訪れる。スイス時計業界全体に大きな影響を与えた人件費の高騰、さらにクォーツショックの影響もあり、72年にアメリカ資本企業に買収されてしまったのだ。買収後、方針転換を余儀なくされた同社は、生産をクォーツウオッチのみに限定し、製造に多大なコストのかかるエル・プリメロは製造が停止されることとなってしまった。
このまま歴史に埋もれて消えていくかとも思われたエル・プリメロだったが、84年に再び転機が訪れる。ゼニスがスイス資本の企業に買収されたことで、当時技術者であったシャルル・ペルモが隠し持っていた図面、部品、工具をもとにエル・プリメロを復活させたのである。以降、今日に至るまで、アップデイトを経ながらゼニスの基幹キャリバーとして採用されていることはご存じのとおりだ。

文・堀内大輔/提供元・Watch LIFE NEWS
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