アメリカは金取引では後進国です

そして、非常に残念なことに、アメリカではこの懸念が的中するような事例がけっこう見受けられます。

アメリカ国民は、1930年代半ばから70年代末まで金を保有したり売買したりすることを大統領令によって禁止されていました。

その結果、金を売買する貴金属商という事業分野自体が今でも未発達です。かなり最近まで小売貴金属商は金については宝飾品だけしか扱えなかったので、とくに地金や延べ棒やコインの小口取引を歓迎する企業がほとんどありませんでした。

小規模な取引しかできない個人にとっては、大口企業顧客の片手間にいやいやながら応対する大手金属商に不愉快な思いをさせられるか、もっとひどいときにはうさん臭い新興業者の詐欺に引っかかるかということが多かったわけです。

そこで、いっそのこと貴金属商から現物を買うより先物を買って現引きをしたほうが、安上がりだし、不愉快な思いもしないで済むとおっしゃる方が多いのでしょう。

日本の場合、1973年までは金の輸入は自由ではなく許可制でしたが、アメリカのように全国民が金を持つことも売買することも禁じられるといったきびしい制約のもとに置かれたことはありません。

さすがに第二次世界大戦中は貴金属ばかりか、ほとんどありとあらゆる金属を供出させられました。ただ、取り締まりは意外にゆるやかで、頑張ってひそかに持ちつづけた方もかなりいらっしゃるようです。

そして、日本でもヨーロッパ諸国ほど長い歴史はありませんが、きちんとした老舗で社会的信用もある貴金属商が全国的な支店網を構築しております。

現在も営業を続けている貴金属地金商としてはおそらく日本最古の田中貴金属工業は、1885年(明治18年)創業で現在も地金商としては日本最大級で、技術力が高く評価されている貴金属加工部門も持っています。

怪しげな商品を売買していたのでは、とうていこんなに長く保つはずがない社歴と言えるでしょう。

なお、日本で貴金属の販売・買い取りを行っている業者には、田中貴金属のような地金商、大手精錬会社や大手商社の貴金属販売部門、商品取引会社といったグループがあります。

こうしたグループごとの特徴、金を根拠資産としたさまざまな金融商品の有利不利、税制上の注意点などについては、植田進さんのお書きになった『不測の事態に強い金投資 資産防衛&資産形成のすべて』の第6章「金投資の基礎知識」がとても親切で明快です。


編集部より:この記事は増田悦佐氏のブログ「読みたいから書き、書きたいから調べるーー増田悦佐の珍事・奇書探訪」2022年2月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「読みたいから書き、書きたいから調べるーー増田悦佐の珍事・奇書探訪」をご覧ください。

文・増田 悦佐/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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