アゴラ・池田信夫氏「コロナ死者数は「過去最大」なのか」を読み、筆者は愕然とした。新型コロナについて良識的で信頼性が高いと思ってきた医師の投稿が、杜撰な内容と指摘していたからだ。インフォデミックが問題視される今、全ての情報発信者は襟を正すべきだ。

コロナ・インフォデミック:モラルのシンギュラリティを超えた?
(画像=nito100/iStock、『アゴラ 言論プラットフォーム』より引用)

これまでの啓蒙活動に敬意を表し、敢えてK医師とする。元記事も確認したが、統計、疫学の基本を逸脱した杜撰な内容に想える。意図したなら批判されるべき、そうでなくても影響力の大きさを考えれば責任は重い。

K医師は新型コロナは一日200人以上死亡する、対してインフルエンザは一年で200人程度と論じたが、その根拠となる統計データがなんと20年前、2001年から2005年のデータだった。直近の厚生労働省の正規統計である人口動態調査によれば、令和元年2019年のインフルエンザによる死者は3575人である。これは直接死因がインフルエンザによるもので、インフルエンザにより基礎疾患が悪化しての死亡等は別である。それを超過死亡や関連死と言うが、これを含めると1万人以上とも言われる。

統計的事実を論じるにはデータの時期等の条件を揃える必要があるのに、20年前との比較では全く意味が無い。20年前は最低時給700円だったよ、今は1000円だよ、じゃあイイ想いできるね!というレベルだからだ。

新型コロナの脅威を正しく評価するには、他の疾病や年齢ごとに比較する必要がある。

我が国の年間死亡者数は超高齢化により急増している。最新の令和2年の人口動態統計によると総死亡者数は137万2755人、年間約140万人が死亡する。その中で肺炎は死因5位、78450人(5.7%)が死亡し、近年誤嚥性肺炎が別集計となり42746人(3.1%)、原因が異なるが臨床的には同じく肺炎なので合わせて121196人(8.8%)、日本人の一割は肺炎で死亡している。

他の死因は、1位:ガン 378385人(27.6%)2位:心疾患 205596人(15.0%)3位:老衰 132440人(9.6%)4位:脳卒中 102978人(7.5%)6位:不慮の事故:38133人(2.8%)である。事故はこの数年で入浴中の死亡(溺死)が問題視され始めており、約2万人弱が入浴中に死亡しているのではとも言われる。

新型コロナ死亡者は客船での上陸から2年余で2万人を超えた、つまり年間約1万人が死亡した。しかし上記他死因と比較すると「普通の肺炎」の1割足らず、老衰や事故死の方が多い、もしかすると「風呂で死ぬ」より少ない。ならば「本当に恐るべき死の脅威」は何だろうか?

この2022年2月には10代で5人目の新型コロナ死亡者が発生した。若い人特に子供は死なないから風邪程度なのだというロジックも言われるが、子供の死者が増えれば覆りかねない。

しかし10代死亡者5名について複数記事を精査すると、3人は基礎疾患がありうち一人は在宅酸素利用の難病患者、1人は事故死だが新型コロナに感染していたので新型コロナ死亡者に計上したという。基礎疾患が無い健康児は一人だけ、それすら自覚症状なく受診していなかっただけで、何かの病気が隠れていた可能性も否定できない。近年小児の糖尿病やそのリスクが問題になりつつあり、自宅療養中の死亡者に診断されていない=放置例の糖尿病患者が相当数居るのでは、という見解もある。

新型コロナの死亡統計は計上基準が自治体により異なるが「死亡時に感染していたら新型コロナ死」とカウントするなら、事故死でも自殺でも無症状でも感染していたら新型コロナ死になり得る。感染者数も、無症状でも検査陽性ならカウントする。先日経済統計が水増しされていたと報道されたが、新型コロナ統計も「盛っている」。

筆者は学生時代「統計のマジック」という言葉を教わった。統計はデータの集め方で、同じデータでも解釈の仕方で、結果「主張する事実」が変わると。「子供が5人<も>死んだ、大変だ」と言うのか、「2万人死んでも子供は5人<だけ>」と言うのかで、雰囲気が反対になる。イメージ、感覚の問題である。

もう一つの問題がスクリーニング効果だ。スクリーニング効果とは、無症状でも多数の人を検査するとごく初期・小さな異常が見つかり、患者数が見かけ増える現象を言う。福島原発事故後に小児甲状腺がんが増えたと一時喧伝されたが、「スクリーニング効果」と学界では結論している。小児甲状腺がんは放置(経過観察)しても、95%以上が自然治癒すると言われている。無症状で気付かず発症しても知らない間に自然治癒する、まさに「知らぬが仏」だ。ところが「全員検査、何度も検査」したので、「見なくてよいものが見えた」。

新型コロナも、感染者より多くの無症状の感染者が居ることを示唆する研究データが複数ある。無症状なら風邪以下だが、検査すればスクリーニング効果が起きる。ゴキブリ一匹見たら陰に50匹と言うが、わざわざ物陰をのぞいたら群がっていた、というに等しい。

新型コロナはチャイナリスクが言われる中国由来と言われ、そこにバイオ研究施設もあったためかマスコミは脅威を喧伝した。さらに新型インフルエンザ等の時より圧倒的にSNSが普及し、個人によるデマ化した情報も拡散された。これらはインフォデミックとして社会問題化しつつある。

筆者は平成14年に専門誌「難病と在宅ケア」誌に「情報のデマ化の危険性」としてインフォデミックを予見し論文投稿、掲載された。当時筆者は我が国初の遺伝子治療解説サイトを開設していたことから、難病患者や医療者から自然発生的に相談が寄せられるようになっていたが、根拠のない・でたらめな情報を得た人が少なくなかった。それを問題視しインターネット普及によるデマ的な情報拡散を予見し危惧したが、現実となった。

善意の一般個人の意見が不正確や誤りとなることは致し方ない。近年はSNS側も注意喚起している。しかし国家資格者である医師等や影響力ある専門家等は、発信する情報の質や姿勢を職業倫理として律するべきだ。たとえノーベル賞学者であろうと、畑違いの(良く知らない)分野に口を出して混乱させるようなことも含めて、職業倫理として慎むべきだ。

新型コロナでは本来良識的言動すべき医師や専門家が「今だけ金だけ自分だけ、三だけ主義」に走り、自説の喧伝売名と補助金等の利益獲得に狂奔した。職業倫理、モラルの一線を超え私利私欲我欲のままに暴走し始めた点で、インフォデミックはシンギュラリティを超えたように想える。それが国家や自治体のコロナ施策を誤らせたなら、その責任は重大だ。

日下公人は「道徳の衰退は国家の衰退」と喝破し、石原慎太郎は「日本人は幼稚化した」と評した。太平洋戦争後、マッカーサーは「日本人は12歳の子供」と言ったという。それから80年、日本人の精神は道徳を弁えない子供(に退行)なのだとしたら、それで良いのだろうか。

少なくとも医療資格者は新型コロナについての情報発信には、私利私欲我欲ではなくパブリックな責任感を持つべきだ。

文・五十嵐 直敬/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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