ゆうちょ銀行が1月17日から一部のサービスについて有料化に転じます。その中でも多くのコメントを見かけたのが「小銭を預けるとお金を取られる」件でしょうか?実は多くの銀行が既に小銭の有料化に踏み込んでおり、金種次第では大量に預けると手数料の方が高くなることになっています。

ゆうちょ銀行の手数料有料化の賛否
(画像=NHKより、『アゴラ 言論プラットフォーム』より 引用)

これに対して「同じお金なのになんでこんなバカなことがあるのか!」と怒りの声が出ています。この意見の方には是非ともお読みいただきたいと思います。

まず、昭和62年施行の「通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律」の第7条に「貨幣は、額面価格の二十倍までを限り、法貨として通用する」とあります。つまり店先でモノを買うとき、硬貨は20枚を超える場合、店側はその受け取りを拒否することができます。名目主義という学説では貨幣には紙幣も入りますが、金属主義という学説や日銀の定義では紙幣は日銀の銀行券で、硬貨を貨幣としています。キャッシュレスの時代ですのでこのような法律や学説が存在すること自体、多くの方が忘れているか、知らない人が多いと思います。

我々の時代に貯金箱なるものがあり、小銭を一生懸命貯めて箱がいっぱいになったら銀行に預けに行くのも今や気を付けなければコスト倒れするかもしれないのです。例えば、りそな銀行は無料で硬貨を受け取るのは一日一回100枚まで無料とされ、それを超えると660円以上の費用がかかります。

私はカナダに住んでいますが、硬貨が嫌がられ始めたのはもう20年も前からでしょうか?そもそも財布を買いに行き「小銭入れを探しているのですが」と店員に聞いてもまず存在しません。昔は折り畳み財布に小銭入れがついているものもありましたがそれも今や絶滅種です。そしてカナダでは1セント硬貨が消え、レジでの支払いは現金払いに限り、四捨五入方式で5セント単位で払います。(レジで2㌦42セントなら2㌦40セント払い、2㌦43セントなら2㌦45セント払うのです。)日本人なら「2セント損した」という声も出そうですが、得した分も含めるとほぼチャラになるはずです。(さいころの確率と同じですね。)

今ではカナダの銀行で紙幣を含め、現金を預けると「現金扱い料」を取られる口座の種類もあります。つまり現金についての考え方を変えなくてはいけないのです。

なぜか、といえば現金は現金輸送車で右へ左へと運んでいることで成り立ちます。キャッシュコーナーの現金だって勝手に補充されるわけではないのです。ところが昨今の治安の悪さも手伝ってこの現金輸送のコストは大きく上昇しています。

また、銀行で大量に紙幣を預けると自動紙幣カウンター機を使います。日本のそれは性能が良いし、日本の紙幣はヨレヨレが少ないので間違いが少ないのですが、こちらのそれはほとんど機能しません。つまりカウントできないぼろ紙幣がはじかれたり、機械が途中で詰まったりして結局、テラーさんが手でカウントするのです。USドルの紙幣なんてボロ過ぎて逆立ちしても無理でしょう。

つまり、100円は100円だけど100円を銀行に預かってもらう行為にはコストがかかる、そして少量は無料だけれど本質的には銀行がそのコストを被っているのです。同じことは例えば、自販機の現金回収も同じだし、店で現金で支払いをするにも同じです。私も24時間営業の駐車場経営をしていた時は一日に現金だけで数十万円分あり、現金を数え、頻繁に銀行に持ち込む手間暇と人件費がかかるのです。

話は変わりますが、「朝鮮雑記」(本間九介著)という書籍があります。これはイザベラ バードの「朝鮮紀行」に並ぶ19世紀後半の朝鮮半島の実情をよくとらえた歴史的価値がある紀行文とされます。同書のある一コマはなかなか興味深いものがあります。

日清戦争の頃、まだ紙幣がなく極めて重く持ち運びに不便な硬貨(孔方銭)しかない朝鮮で本間が紙幣を韓人に見せたら「盗賊にあったらすぐに盗まれる」「理由なく庶民のお金を奪う役人の目を騙すには便利」挙句の果てには「これを使う権利を得るには役人にどれほどの税金を納めるべきか?」と聞かれたとのことです。

その朝鮮半島で紙幣が正式に発行されたのが1905年、日本が紙幣制度を持ち込み、記念すべきその紙幣の顔になったのは渋沢栄一だということは案外知られていないかもしれません。

お金の価値は紙幣だろうが、硬貨だろうが変わりません。ついでに言うなら資産価値のある株式などの有価証券、不動産、金、ビットコイン…これらの額面上の価値はもちろん相場がありますが、公平な価値であります。但し、それを交換したり、預託したり、引き出したりするには社会の仕組みにそれを委託する必要があり、それは残念ながら公的機関が無償で行うわけではなく、ほぼすべての行為は民間企業が営利として行っているのです。

自宅に多額の現金を積み上げても良いですが、強盗に襲われて警察や保険会社に言ってもそれを証明する手段はありません。しかし、銀行に預けておけばシステムに記録されるため、自分の残高は確実に分かり、遺産相続の時ももめないでしょう。

残念ながらゆうちょ銀行は民営化しています。この有料化に文句があるなら小泉元首相に文句を言っていただくしかないでしょう。但し、仮に小泉氏の郵政改革がなくても有料化には遅かれ早かれ踏み込んだとは思いますが。

手数料を取られたくないならばコンビニとスーパーでせっせと少しずつ使うしかないのではないでしょうか?

ところでお金を払う時、札ビラだけを切っておつりを貰う癖のある人は多いと思います。お金が貯まる人との違いは会計で小銭のおつりが出ないように札と硬貨をうまく組み合わせる努力をするかが案外コツなんです。お金扱いで大雑把は絶対に貯まらないということです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年1月17日の記事より転載させていただきました。

文・岡本 裕明/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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