新型コロナウイルスのオミクロン株、市中感染が連日報道されている。
前編に続き、その来たるべきオミクロン株の第6波に向けて、「今日本人が知っておくべき4つのこと」をお話したい。
病床整備はどうなってる?
覚えておられると思うが、8月オリンピックのときに訪れたデルタ波の第5波はまさに医療崩壊だった。
3万7千あったコロナ病床はあっという間に埋まり、自宅療養患者は13万人にのぼった。
あの夏の第5波のときは日本国民全員がハラハラした。
あれからもうだいぶ時間が経ったし、今は感染者数も何故か激減しているので印象が薄くなってきているとは思うが…。
ではその後、病床整備はどうなったのか?
厚生労働省の発表では、日本全国のコロナ病床はこの様になっている。
よく言えば微増。率直に言って「殆ど変わっていない」というところだ。特にいちばん重要な重症病床は。第5波のときに発生した自宅療養者13万人を想定したら、そこには到底及ばない確保病床数でとどまっている。
ちなみに、日本は世界最大の病床数と医療機器を持っている。総病床数は160万床。そのうちコロナに割いているのは2.5%の4万床だ。
いや、百歩譲って、「軽症は自宅療養に」とかの戦略なら分かる。しかし現実は「オミクロン株患者および濃厚接触者は全例隔離」だ。
また、スウェーデンのように、感染者急増の兆候が見えたら数週間で一気にコロナ病床を数倍に増やす(そして波がひいたら戻す)とかが出来るならそれも分かる。しかし日本の医療体制ではそれが出来なかったことも明白な事実だ。
こちらはコロナ禍初期の日本とスウェーデンの病床数の推移、病床数の推移が全く違うのがよく分かる。
こちらはスウェーデン在住の泌尿器科医師、宮川先生の投稿だ。
まったく感染症専門ではない泌尿器科の病棟も一気にすべてコロナに置き換わったとのこと(もちろん迅速に元に戻したのこと)。
御存知の通り、日本の医療行政および医療業界はこの2年間、そういう迅速な対応が全く出来なかったのだから、おそらく今後も全く出来ないだろう。
思い出してみよう。
第1波が来る!ということで緊急事態宣言が出たあの緊迫した2020年の春…
緊急事態宣言の目的は
「感染者数が一気に増大すると医療逼迫・医療崩壊するので、それを防ぐために緊急事態宣言を出して感染者数の伸びを抑制し、その間に医療体制を充実させる」
という風に説明されていた。
国民は「医療の準備が整うまでの時間稼ぎ」という名目で外出を控え、お店を閉め、学校を休校にし…結果町から人がいなくなったのだ。
一方、あれだけ国民に行動制限や営業自粛を要請しておきながら、医療体制の方は2年経っても「2.5%」しか準備できていない。
さらに、その2.5%しかない確保病床すらあてにならない。
医療逼迫で自宅待機者が溢れていた第5波当時、あの尾身氏が理事長を務める病院(JCHO)ですら、その確保病床の半分近くしか使っていなかった(残り半分は空床、つまり俗に言われる幽霊病床)。コロナ病床の補助金もらっていたにもかかわらず。
これは尾身さんの病院だけの話ではないだろう。
正直言って、医療業界全体が犯してしまった国民への裏切りと言っていい。猛省すべきだ。
まあ、私がここでそんなこと言っても医療業界が猛省するはずないし、来たるべき第6波でもおそらくは医療体制はそのままで誰も動かないだろう。
結果として今後は雪崩のように、
- 軽症を中心に患者が増大する
- 保健所の追跡機能・検査機能が追いつかなくなる
- 病院や宿泊施設も満床になってくる。(運用次第では重症病床も埋まる?)
- その結果、在宅待機患者が増大し、一部重症患者も入院できなくなる
- 医療崩壊 という第5波並みと同じパターンが繰り返されるのだ。
だって、医療側はほとんど第5波のときと対応力が変わっていないのだから。
もちろん、今回のオミクロン株はほとんどが軽症らしいので、それも杞憂に終わる可能性もかなりある。でも、最悪のケースを想定して体制を整えておく、少なくともいざというときに迅速に対応できるように準備しておく、というのは当然の戦略だ。
日本より病床が圧倒的に少ない諸外国(英米でさえ人口あたり病床数は日本の5分の1くらい)は、日本の数十倍の被害だったにも関わらず、その分迅速に、数週間でコロナ病床を倍増するなどの対応でコロナ禍を乗り切ってきたのだ。
日本の医療業界が迅速に対応できないというのはもう実証済みなので諦めるとして、いざそのときになって国民の「気の緩み」などと責任転嫁するのは絶対にやめてほしい。国民に行動制限や営業自粛を求める前に、医療業界に出来ることは甚大にあるのだから。
まとめ
これまで見たとおり、第6波に向けて我々が知っておくべきことは、
- 感染は急速に広がり、ピークは1月下旬〜2月?
- 感染者は増えるが、弱毒化により重症・死者数は減る?
- それに対応する医療側は第5波からほとんど変わっていない というところだ。
こうしてデータや数字などから現状を把握し、それに基づいて対策を考えることは非常に大事なことなのだが…。
でも、そこにばかり着目していると視野がどんどん狭くなってしまう。実は、大事なことはもっと深いところにある。
そもそも、医療の目的とは何か?
医師法第1条には、
「医師は(中略)国民の健康な生活を確保するものとする。」
と書いてある。
もちろん新型コロナにかからないことで健康を保つことも大事だ。しかし、過渡の自粛や行動規制で親しい人たちとの交流が減ってしまって本当の健康が得られるのか?という視点も大事だ。
健康とは体の話だけでなく、心の健康も、社会的な健康(絆を紡ぐことで生まれる良好な人間関係・コミュニティー)も含まれるのだから。
この2年間のコロナ対策で、経済は落ち込み、学校は休校・リモートになり、高齢者は施設に閉じ込められた。その結果、2020年の自殺数は激増し、子供の自殺は過去最高となった。
果たして我々医療従事者は本当に「国民の健康な生活」を確保できたのだろうか?
そもそも、新型コロナの他にも感染症はたくさんある。肺炎による死者数は毎年10万人、多いときで12万人。インフルエンザは毎年1000万人がかかって、多いときは1万人が亡くなると言われている。
一方、新型コロナの死亡はこの2年で1万8000人。そして、どの感染症もその死亡のほとんどは高齢者だ。
人間の死亡率は100%。非常に残念なことだが、高齢になれば様々な理由で人は死ぬ。新型コロナもその一つと考えるなら…社会全体でもっと最適解があったのではないだろうか。
特に、来たるべきオミクロン株は「弱毒化」が予想されている。これまでと同じ対応が、第6波で「最適解」である可能性は、これまでにもまして低くなるだろう。
過剰な感染対策が、かえって国民の「健康」を脅かすことはすでにわかっている。
感染症の専門家は感染を抑えることが仕事。なので、彼らにおまかせしていたら、
「感染はおさまったけど社会はぶっ壊れた」
ということになりかねない。
だからこそ日々の感染者数などの数字に一喜一憂せずに、今こそみんなで、どこまでが社会全体の「最適解」なのか? を真剣に議論すべき時なのではないだろうか。
文・森田 洋之/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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