リンゴの木も重力には逆らえなかったようです。

今月19日、イングランドを襲った暴風雨により、ケンブリッジ大学植物園(Cambridge University Botanic Garden、CUBG)にある「ニュートンのリンゴの木(Newton’s Apple Tree )」が倒木した、と報告されました。

この木はかの有名な、「リンゴが落ちるのを見て万有引力を思いついた」というニュートンの逸話の元となった原木を接ぎ木で繁殖させた、いわばクローンの1本です。

1954年に植樹されて以来、68年間、同地の人気ツリーとして愛されてきました。

一方で、「リンゴの木の逸話はそもそも実話なのか」という声も多々あります。

その点も含め、以下で詳しく見ていきましょう。

目次
「リンゴの木」の逸話って本当?
「ニュートンのリンゴの木」はクローン再生で世界各地に子孫を残した

「リンゴの木」の逸話って本当?

アイザック・ニュートンは1642年、イングランド東部にあるリンカンシャー州グランサム近郊のウールスソープ・マナーに生まれました。

ウールスソープ・マナーは母方の祖父宅であり、ニュートンの実家として知られます。

この実家の庭には実際に、セイヨウリンゴの一品種「ケントの花(Flower of Kent)」の木があったようです。

「ニュートンのリンゴの木」が激しい嵐と万有引力で倒れる
(画像=アイザック・ニュートン(1642-1727) / Credit: ja.wikipedia、『ナゾロジー』より引用)

ニュートンは1665〜1667年の間に2度、実家に滞在していました。

その庭先で瞑想にふけっていたとき、ケントの花から1個のリンゴが落ちてきて、万有引力を発見するヒントとなったといいます。

これが、今に伝わる「リンゴの木」の逸話です。

彼自身による記述はありませんが、周囲の人たちがそれについて書き残しています。

最も有名なのは、友人であるウィリアム・ステュークリが1726年に、ニュートンから直接聞いた話として『MEMOIRS OF Sr. ISAAC NEWTONS life』に記録したものです。

そこには、次のような話があります。

夕食の後、私とニュートンは庭に出て、リンゴの木の下でお茶を飲んだ。

話の途中で、彼は「昔、万有引力のアイデアが浮かんだ状況とまったく同じだ」と言った。

彼は続けた。

「なぜリンゴはいつも地面にまっすぐ落ちるのか。考えにふけっていたそのとき、たまたま頭上からリンゴが落ちてきた。

疑いもなく、地球がリンゴを引き寄せていたのだ。物質の引く力の大元は地球の中心にあり、それ以外のところにはないに違いない」

「ニュートンのリンゴの木」が激しい嵐と万有引力で倒れる
(画像=「リンゴの木」の逸話が記されたステュークリの手稿 / Credit: ja.wikipedia、『ナゾロジー』より引用)

また、フランスの哲学者ヴォルテール(1694-1778)は、1727年3月にニュートンが亡くなった折、イギリス訪問中にニュートンの姪から聞いた次の一説を『Essay on Epic Poetry of 1727』に残しています。

「アイザック・ニュートン卿は、実家の庭を歩いていた矢先、木からリンゴが落ちるのを見て万有引力の最初の思考を得たのである」

「ニュートンのリンゴの木」が激しい嵐と万有引力で倒れる
(画像=ケンブリッジ大学植物園に生育していた「ケントの花」(2004年8月撮影) / Credit: ja.wikipedia、『ナゾロジー』より引用)

こうした記録からも、リンゴの木の逸話は実際にあった出来事と見られます。

しかし不幸なことに、時代を経るにつれ、話にさまざまな尾ひれが付いて、信頼できないものとなったのです。

たとえば、スイスの数学者であるオイラーは「リンゴがニュートンの頭に当たった」と何の根拠もなく書いています。

また、ドイツの数学者ガウスは「話が単純すぎる」といって、「本当のところは、ニュートンに着想の経緯をしつこく尋ねてきた馬鹿者をあしらうために、『リンゴが一つ鼻に落ちてきたのだ』と作り話をしたのだろう」と流布しました。

こうした話が積み重なって、どんどん嘘くさくなってきたのです。

確かに、逸話が100%本当だとは言えませんが、ニュートンがよく物思いにふけっていた実家の庭先にリンゴの木があったのも事実です。

では、その実家の庭の木はニュートン亡き後、どうなったのでしょうか?

「ニュートンのリンゴの木」はクローン再生で世界各地に子孫を残した

「ニュートンのリンゴの木」が激しい嵐と万有引力で倒れる
(画像=同大植物園にある倒木前のリンゴの木 / Credit: Cambridge University Botanic Garden – Storm Eunice blows down CUBG’s “Newton’s Apple Tree”(2022)、『ナゾロジー』より引用)

逸話の元になったリンゴの木は、1814年に老衰のため伐採されたため、現存はしていません。

しかし、その木で作られた椅子と材木が、英国王立協会に保管されているといいます。

それより重要なのは、伐採前に接ぎ木で増殖させた苗木が「ニュートンのリンゴの木(Newton’s Apple Tree )」として世界各地に渡ったことです。

接ぎ木は原木のクローンを作り出す重要な技術で、農業でもよく使われています。

おかげで、オリジナルのリンゴの木は連綿と続く子孫を維持することができたのです。

そのうちの1本が1954年にケンブリッジ大学植物園の入り口に植樹されました。

同大の研究チームは最近、この木のゲノム解読を行い、オリジナルの原木や他の子孫たちと遺伝子が一致していることを確認しています。

そして2022年2月19日、イングランドを襲った暴風雨「ストーム・ユーニス(Storm Eunice)」により、68年間この地に立ち続けたリンゴの木が根元から倒れてしまいました。

「ニュートンのリンゴの木」が激しい嵐と万有引力で倒れる
(画像=暴風雨で倒れてしまったリンゴの木 / Credit: Cambridge University Botanic Garden – Storm Eunice blows down CUBG’s “Newton’s Apple Tree”(2022)、『ナゾロジー』より引用)

木はすでに枯れており、近々、撤去と交換の計画が立てられていたといいます。

ただ、それを見越していたおかげもあって、過去3年のうちに接ぎ木を行い、2本の子孫が予備として残されていました。

チームは、木が枯れた原因と見られるナラタケを避けるため、また別の場所に植樹する予定です。

倒木は現在、庭園から撤去されており、木材をどうするかは追って決定するとのこと。

木は倒れてしまいましたが、接ぎ木の技術によって、今後もニュートンのリンゴの木は代々受け継がれていくことでしょう。


参考文献

Storm Eunice blows down CUBG’s “Newton’s Apple Tree”

The Legend of Newton’s Apple Tree(2021)

Cambridge University Botanic Garden’s ‘Newton’s apple tree’ falls in storm


提供元・ナゾロジー

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