(3)衛星データによる草原管理モニタリングは世界文化遺産登録の好材料になり得る?
宙畑:阿蘇の世界遺産暫定一覧表追加資産に係る提案書についてお話を伺えればと思います。提案書の中に「地球観測衛星」という文字を見つけたのですが、前回のお話を通して、衛星データになんらかの可能性を見出していただけたということでしょうか?
福田:そうですね。まずは衛星データについてお話する前に提案書についてお話しできればと思います。
私たちは、2年間かけて阿蘇の価値付けをしっかりと磨き込み、阿蘇の価値を4つの構成要素に落とし込みました。

阿蘇は、世界で類を見ない普遍的な価値を持った場所であると私たちも自負しています。一方で、世界文化遺産の登録がなされた後、資産の保護と保全管理がとても重要になるのですが、この部分はこれから検討を進めていく必要があります。
伊津野:重要な構成要素の保全、つまり、良好な状態で次世代につないでいくことも求められます。実際にどうやってモニタリングをしていくか?ということが道半ばというのが正直なところです。
福田:その点、衛星データは、世界文化遺産登録された後の資産の保護と保全管理を行う上でとても有用だと考えています。
宙畑:実際にどのような点に魅力を感じていただいていますか?
福田:世界文化遺産に登録された場合、何年かおきに保全状況をユネスコ(国際連合教育科学文化機関)に伝える必要があります。当然ユネスコの審査を担当する方は全員が日本に来るわけではなく、提出書類を審査する人もいます。
その際に管理体制を説明して「(人手によって主観的に)きちんと管理しています」というよりも、衛星データを用いて(客観的に)報告できた方が、より分かりやすく、きちんと理解していただけるのではないかと思います。
宙畑:世界文化遺産登録をするための材料として衛星データが使えるのではないかと宙畑では考えていたのですが、世界文化遺産登録を外されないためにも衛星データが使えるということですね。
伊津野:その通りで、維持し続けることもとても重要なのです。
福田:外国の方が審査されるので、現地に来ずともきちんと理解される、分かっていただけるデータというのはとてもありがたいですね。
宙畑:ありがとうございます。それでは、さっそく宙畑で準備した衛星データを見ていただきたいと思います。
(4)使い道は?アップデートするなら?
宙畑:まず、衛星データで阿蘇山の草原を見ると、どのように見えるのかということを直感的に知っていただくためにこちらの画像を準備しました。

宙畑:こちらが野焼きが行われている時期であろう2021年3月の衛星データをキャプチャしたものになります。そして、5月の画像がこちらになります。

宙畑:また、1月の衛星画像を見ると以下になります。

宙畑:1月の衛星画像では3月の衛星画像に見られる焦げ茶色の部分がなく、薄い茶色の場所がまんべんなく広がっています。そのうえで、草原であるところは基本的には野焼きしなければならない場所であると考えると、5月は緑になっていて、3月の衛星画像では焦げ茶色になっているところが、野焼きをされていたであろう場所と推測できます。
さらに、人の目で野焼きされたであろう場所をつぶさに見ていくというのは大変だと思いますので、私たちの方で、野焼きをされたであろう場所を機械学習を用いて解析して色をつけてみたのが以下になります。

宙畑:さらに、2021年の野焼きエリアと2017年同時期の野焼きエリアを比較してみたものがこちらです。

宙畑:こちらを見ると、2021年の方が2017年よりも野焼きの進捗が良いことが分かります。前回の打ち合わせでもお伺いした2016年の熊本地震の影響だと思われます。
今は衛星データだけで判断していますが、実際に地上の野焼きの実施可否やドローンの画像と合わせることで、より精度を高く野焼きの箇所が分かるようになると思います。
この画像をご覧いただいて、何か気になる点や、肌感とあっているかどうか、また、こういった使い道ができそうだな、などとあらためて感想などをいただけますか?
成瀬:これまでは野焼きをしていたが、今年から止めてしまったという牧野組合があった場合、この部分の野焼きを休止していることが一目で分かるということですよね。野焼きの管理をしている、また、再開していきたいと思っている地方自治体にとっては、今後の野焼き支援に繋げていけるのではないかと思います。
伊津野:野焼きをしづらい所というのは、人が入りづらいところ、つまり、急な傾斜があるところなんですよね。

成瀬:衛星データから野焼きをしていない場所を把握できたら、傾斜情報と合わせて、このエリアであれば野焼き再開できるのではないかという提案に使えそうだなと思いました。
宙畑:ありがとうございます。先ほど作成した衛星データに、傾斜地のデータを重ね合わせれば、野焼きが行われなくなった理由も分かってきそうですね。
福田:また、衛星データがあれば、野焼きを行っている牧野組合の方々も肌感覚で分かっている現状を衛星データで客観的に把握できて管理に活かしていただくことはできるかもしれませんね。
伊津野:地方自治体で、牧野組合の方と衛星データを一緒に見ながら話すことで「全体の野焼きを再開するのは難しいけれど、この部分だけならもう少し頑張れば野焼き再開できるんじゃない?」といった話ができると良いですね。
福田:今後、県民の方とも協力しながら阿蘇の景観を守っていかなくてはならない段階だと考えています。その際に、一緒に確認できるデータがあるという点でも衛星データは役に立つと思います。
(5)いざ、野焼きへ
以上、阿蘇の草原維持管理に衛星データを使えないかを検討する、熊本県庁さまとの第2回の打ち合わせの内容をご紹介しました。傾斜地は野焼きがしづらい、実際に野焼きをする方はどのようなポイントを見たいのか……など、衛星データを見るだけでは分からないことも多く伺えた貴重な打ち合わせでした。
次回、コロナウイルス感染症の状況次第ではありますが、実際に阿蘇の野焼きを取材に行ってみたいと思います! 現地で野焼きを担当されている方のお話を聞くことで、さらに衛星データ活用のイメージも膨らむはず。阿蘇の草原維持管理に衛星データ!は引き続き検討を続けてまいります。次回以降の記事もお待ちいただけますと幸いです。
提供元・宙畑
【関連記事】
・衛星データには唯一無二の価値がある。メタバース空間のゼロ地点を作るスペースデータ佐藤さんを突き動かす衝動とは
・深刻化する「宇宙ごみ」問題〜スペースデブリの現状と今後の対策〜
・人工衛星の軌道を徹底解説! 軌道の種類と用途別軌道選定のポイント
・オープンデータ活用事例27選とおすすめデータセットまとめ【無料のデータでビジネスをアップデート! 】
・月面着陸から50年!アポロ計画の歴史と功績、捏造説の反証事例