厳しい冬の寒さは、多くの生物にとって避けるべき大敵です。

ところが今回、カナダのウェスタン大学(Western University)、天然資源省(Natural Resources Canada)の共同研究で、極寒のブリザードにも耐えうる最強の甲虫が発見されました。

それがアオナガタマムシ、英名「エメラルド・アッシュ・ボアラー(emerald ash borer)」です。

実験では、なんと体温がマイナス50℃まで下がっても生き延びられることが示されています。

研究の詳細は、2022年2月3日付で科学雑誌『Current Research in Insect Science』に掲載されました。

目次

  1. マイナス50℃でも死なない耐寒力!
  2. 環境に合わせて「耐寒レベル」が変幻自在?

マイナス50℃でも死なない耐寒力!

アオナガタマムシ(Agrilus planipennis)は、北東アジアを原産とする甲虫で、トネリコの木を主食とします。

メスはトネリコの樹皮の隙間に産卵し、幼虫は樹皮を食べて約1〜2年で成虫となります。

自生地では数の密度も低く、自分たちのすみかである木に被害を与えることはしません

ところが、外来種として侵入したヨーロッパや北アメリカでは、その地に自生するトネリコの多くを破壊しています。

ちなみに、英名のエメラルド・アッシュ・ボアラーとは”トネリコに穴を開けるエメラルド色の者”の意です。

成虫はこちらの画像のように、トネリコの樹皮を剥いだり、穴を開けたりします。

−50℃のブリザードに耐える「最強甲虫」を発見!
(画像=成虫が開けた穴 / Credit: ja.wikipedia、『ナゾロジー』より引用)
−50℃のブリザードに耐える「最強甲虫」を発見!
(画像=樹皮を剥がれたトネリコ / Credit: ja.wikipedia、『ナゾロジー』より引用)

北米のミシガン州とオンタリオ州南西部には1990年代後半に侵入し、生態系と経済に大きな影響を及ぼしました。

以前の研究で、この地のアオナガタマムシは、マイナス30℃の温度まで耐えられることが示されています。

しかし、それ以上の耐寒性を持つ一群が今回、カナダ中東部マニトバ州ウィニペグにて発見されました。

ウィニペグに住む一群は、2019年に同地を襲ったブリザードに耐え抜いていたことがわかったのです。

そこで研究チームは、アオナガタマムシがどれほどの寒さに耐えうるか、調査を開始。

まず、オンタリオ州バリー周辺からアオナガタマムシを採取し耐寒テストをしたところ、すべての個体がマイナス28℃前後で凍結し、死んでしまいました。

一方、マニトバ州ウィニペグで採取した一群は、平均マイナス46℃まで耐え抜き、そのうちの何匹かはマイナス50℃でも死ななかったのです。

−50℃のブリザードに耐える「最強甲虫」を発見!
(画像=マイナス50℃まで耐えれるアオナガタマムシ / Credit: Brent J. Sinclair(Western University) – Emerald ash borer takes on polar vortex: study(2022)、『ナゾロジー』より引用)

同チームのブレント・シンクレア(Brent Sinclair)氏は、こう述べています。

「バリーは現在、オンタリオ州でアオナガタマムシが採取できる最南部の場所で、その耐寒性は10年前にロンドンで実験した結果と同じです。

ところが、それより北部にいるウィニペグの個体群の耐寒性は信じられないものでした」

彼らは血液に、不凍液として機能する非常に多くのグリセロールを含んでおり、血液というよりゼリーのようだった、と他の研究員は指摘します。

では、ウィニペグのアオナガタマムシたちは、いかにしてこれほどの耐寒性を獲得したのでしょうか?

環境に合わせて「耐寒レベル」が変幻自在?

チームは、2つの仮説を立てました。

1つは、アオナガタマムシが侵入してわずか数年で、ウィニペグの厳しい冬を生き残るよう進化したこと。

もう1つは、厳しい寒さに対応するために生理機能をすばやく変化させたことです。

そこで実験として、ウィニペグの個体群を採取し、「ロンドン条件」と「ウィニペグ条件」の2つの環境グループに分け、飼育しました。

その結果、ロンドン条件ではロンドンレベルの耐寒性を、ウィニペグ条件ではウィニペグレベルの耐寒性を持つよう変化したのです。

これは、アオナガタマムシが環境に合わせて生理機能をすばやく変更できることを示します。

「昆虫が柔軟な耐寒性を持つことは以前から知られており、これが外来種の拡散を予測する際の障害となっていましたが、この結果は予想を数段階も上回るレベルの柔軟性です」とシンクレア氏は指摘します。

−50℃のブリザードに耐える「最強甲虫」を発見!
(画像=最強クラスの耐寒性を持つアオナガタマムシ / Credit: Brent J. Sinclair(Western University) – Emerald ash borer takes on polar vortex: study(2022)、『ナゾロジー』より引用)

また、同チームのアマンダ・ロー(Amanda Roe)氏は「この寒冷に対する柔軟性ゆえに、アオナガタマムシはトネリコの生育する場所ならどこでも適応可能でしょう」と付け加えました。

本研究の成果は、アオナガタマムシの拡散を予測しようとする科学者にとって、重大なものとなります。

これほど柔軟かつ極端な耐寒性を持つことは、彼らが拡散できる範囲が予想以上に広いことを意味するからです。

アオナガタマムシは、まさに最強クラスの適応力を持った甲虫と言えるかもしれません。

参考文献
Emerald ash borer can survive polar vortex
Emerald ash borer takes on polar vortex: study

元論文
Plasticity drives extreme cold tolerance of emerald ash borer (Agrilus planipennis) during a polar vortex

提供元・ナゾロジー

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