アルゼンチンの古生物学者らは、約7000万年前に同国北部に生息していた”腕なし恐竜”の化石を発見した、と発表しました。
この化石は、肉食恐竜の一群であるアベリサウルス類の新種と見られます。
これまでに同国で見つかっている30種以上のアベリサウルスの化石は、すべて南部のパタゴニア産であり、北部で見つかるのは極めてまれ。
恐竜時代におけるアルゼンチン北部の生態系を知る上で、貴重な資料となります。
研究の詳細は、2022年2月10日付で科学雑誌『Journal of Vertebrate Paleontology』に掲載されました。
アルゼンチン北部での発見はレア
新種の化石は、アルゼンチン北部・アンブラヨ(Amblayo)の近くにある白亜紀の地層で、頭蓋骨のみが発見されました。
研究チームは、保存状態の良いブレインケース(脳のある部分)を分析。
その結果、他のアベリサウルス類と同様に、容量が小さく、脳も非常に小さかったことが示されました。
この個体は幼体であると考えられていますが、まだ結論は出ていません。
また、頭蓋骨の前部にある「フォラミナ(foramina)」という小さな穴の列がユニークな特徴をなしていました。
この穴は、頭頂部の薄い皮膚に血液を送り込み、熱を放出する際の冷却に役立った可能性がある、とチームは指摘します。
新種の学名は、アルゼンチン独立戦争の英雄として知られるマルティン・ミゲル・デ・グエメス将軍(1785〜1821)にちなんで、「グエメシア・オチョアイ(Guemesia ochoai)」と命名されました。
チームは、この恐竜について”腕なし(armless)”と表現していますが、まったく腕がなかったわけではありません。
アベリサウルスには、退化した腕の名残のようなものがついていますが、非常に小さく短いため、実用性はなかったと見られます。
腕の短い恐竜には他にティラノサウルスがいますが、彼らの腕はアベリサウルスほど未発達ではありませんでした。
他の研究では、短い腕を使って獲物をつかみ、引き寄せるぐらいはできたと指摘されています。
こちらの画像は、アベリサウルス類のカルノタウルス・サストレイ(Carnotaurus sastrei)の復元イメージで、今回のG. オチョアイに最も似た種と予想されています。
G. オチョアイの化石は、他のアベリサウルス類とは2つの点で大きく異なります。
1つは、頭蓋骨にツノがないこと。
本種はアベリサウルス類の祖先種と見られ、その時点ではまだ目の上の尖ったツノを進化させていなかったのでしょう。
もう1つは、アルゼンチン北部で見つかったことです。
アベリサウルスは南米のほかに、アフリカやインドなどに分布しましたが、アルゼンチンで見つかっている35種はほぼすべて、南部のパタゴニアで出土しています。
これは、G. オチョアイがアベリサウルスの中で特異な位置を占めていたことを示唆します。
「この新しい恐竜は、その種類としてはかなり珍しいものです」と、ロンドン自然史博物館(Natural History Museum in London)の古生物学者、アンジャリ・ゴスワミ(Anjali Goswami)氏はいいます。
「アルゼンチン北部に生息した恐竜は、南部の恐竜とはまったく違い、白亜紀において特殊な生態系を形作っていたでしょう」と続けています。
実際、同地では全長1メートルの甲羅をもつ巨大亀など、他の地域ではあまり見られない変わった化石が出土しています。
チームは今後、G. オチョアイとその近縁種の標本を調べ、恐竜時代のアルゼンチンについて解明していく予定です。
提供元・ナゾロジー
【関連記事】
・ウミウシに「セルフ斬首と胴体再生」の新行動を発見 生首から心臓まで再生できる(日本)
・人間に必要な「1日の水分量」は、他の霊長類の半分だと判明! 森からの脱出に成功した要因か
・深海の微生物は「自然に起こる水分解」からエネルギーを得ていた?! エイリアン発見につながる研究結果
・「生体工学網膜」が失明治療に革命を起こす?
・人工培養脳を「乳児の脳」まで生育することに成功