「もし私たちに尻尾や翼が生えていたら、もしくは腕が4本だったら、どんな感覚だろうか」と考えたことがあるかもしれません。
人間が本来もたない身体部位の追加は、長年科学者たちが研究してきた分野です。
そして最近、電気通信大学・大学院情報理工学研究科に所属する梅沢 昂平(うめざわ こうへい)氏ら研究チームは、人工的な第6の指を身体化することに成功しました。
被験者たちは、追加された6本目の指を独立して動かし、しかも自分の体の一部のように感じることができたのです。
研究の詳細は、2月14日付の科学誌『Scientific Reports』に掲載されました。
目次
身体機能の「置き換え」ではなく「新たな獲得」自分の身体の一部と感じる「第6の指」
身体機能の「置き換え」ではなく「新たな獲得」
身体部位の追加は、これまで多くの科学者たちがチャレンジしてきたことです。
例えば2021年5月、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)の研究チームは、「第3の親指」と称する指型デバイスの追加に成功しました。
この指を制御するセンサーは両足首にあり、装着者は「両足のつま先を動かして」人工指を操作します。
確かに、この技術は素晴らしいものですが、私達が考える「新たな指の獲得」とは若干異なっている印象がありました。
なぜならこれは「つま先を動かす」という運動を「指の動き」に置き換えているだけだったからです。
求められているのは、他の身体部位を動かさなくても、追加した指だけを独立して動かせるシステムなのです。
また、追加した指を自分の身体の一部のように感じられる(身体化する)なら、それはまさに「新たな身体部位の獲得」と言えるでしょう。
そんなSFのような技術は実現するのでしょうか?
今回、梅沢氏ら研究チームは、追加した人工指の独立制御と身体化に成功しました。
これらが実験的に立証されたのは世界で初めてのことです。
次項では、彼らが開発した「第6の指」について解説します。
自分の身体の一部と感じる「第6の指」
今回、研究チームが開発したのは、手のひらに装着可能な人工指デバイス「Sixth finger(第6の指)」です。
Sixth fingerは腕の筋肉の電気活動によって制御可能。
しかも従来の指を曲げ伸ばしするため電気活動とは、異なる信号パターンを利用しています。
これにより、Sixth fingerを動かす感覚と、従来の指を動かす感覚が混同することはありません。
つまり他のどの身体部位の動きとも独立して、Sixth fingerを動かすことが可能なのです。
そしてチームは、Sixth fingerを装着した被験者18名の感覚や行動にどのような変化が生じるのか実験的に確かめました。
複数の実験の結果、参加した被験者すべてが、Sixth fingerを思い通りに動かすことに成功。
しかも慣れるにつれて、まるで本物の指のように、感覚的に動かすことができました。
被験者たちはSixth fingerを自分の身体の一部だと感じたのです。
実際、身体化の度合いが高い被験者ほど、Sixth fingerを装着した手の端(小指側)の位置感覚が曖昧になりました。
「装着したSixth finger」を「生来の小指」と同じレベルで自分の身体だと認識してしまったのかもしれませんね。
さて今回の研究結果から、チームは世界で初めて、独立制御可能な「第6の指」の身体化に成功したと言えます。
今後、Sixth fingerの力を増強することで、実世界で使える人工指に発展させられるかもしれません。
例えば6本の指により、タイピングやピアノ演奏のスキルが向上したり、物を運びやすくなったりするかもしれません。
さらに発展させるなら、第3の腕、4本の脚、尻尾や翼の追加につながる可能性もあります。
多くの人が新たな身体部位を獲得する日は、案外遠くないのかもしれませんね。
参考文献
独立制御可能な「第6の指」を身体化することに成功
元論文
Bodily ownership of an independent supernumerary limb: an exploratory study
提供元・ナゾロジー
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