欧州の教訓を踏まえた政策を

カーボンプライスによりCO2排出のコストを消費者が実感して行動変容を促すというのが、いわゆる環境税の意義だとすると、今回のエネルギーインフレによるガソリン代の高騰は、将来の脱炭素に向けたカーボンプライシング政策の予行演習として、補助金でガソリン価格高騰を抑えるのではなく、国民にガソリン消費を抑えるハイブリッド車やEV等への乗り換えを呼びかけるというのが筋なのではないだろうか?

それが現実にできないということであれば、仮に現在の世界的なエネルギーインフレが何らかの理由で幸運にも収まったとしても、政府が人為的、政策的にガソリン代など化石燃料コストを引き上げることになるカーボンプライシング政策をあらためて導入することに、国民の同意は得られないだろう。

ちなみに欧州では、エネルギー供給の3割強を占める天然ガスの高騰と、想定外の再エネの不調(例年に比べて風が弱く風力発電の稼働が3割近く落ち込んでいる)が相まって、石炭火力の発電量が急増するという皮肉が起きている。

EUのカーボンプライシング政策の中心はEU-ETS(排出権取引制度)が据えられているが、電力部門は火力発電に必要なCO2排出量枠を全量、排出権クレジットで相殺する必要があるが、その排出権価格が、昨年春の€40/t-CO2から、今年に入って€90に高騰していて、€100に迫ろうとしている。

そこで天然ガス価格の高騰でうなぎのぼりの発電コストを抑えるために、相対的に安価な石炭火力発電で補填しようとしても、高騰する排出権を買って発電するために、電力価格はさらに高騰するという皮肉が起きているのである。

EU-ETSにおいて、排出権は市場で取引され、価格は投機的の対象として、不足が予想される時には価格上昇が加速する仕組みが組み込まれているため、価格変動が大きくなる。そうした投機的なカーボンプライスの影響が、生活必需品である電力価格を資源エネルギーインフレを上回ってさらに増幅するという市場メカニズムが、欧州市民の生活を圧迫しているのである。

こうした教訓を踏まえた上で、我が国はどのような「カーボンプライシング」を導入するべきか否か、よくよく考える必要がある。

文・手塚 宏之

文・手塚 宏之/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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