新型コロナウイルスの影響が長く続いたため、マスクの着用が日常生活に定着しました。
このため、多くの人が表情を明確に読み取れず、目の周りしか見えない状態になっています。
この状況は、人のコミュニケーションの方法になにか影響を与えている可能性はないでしょうか?
株式会社資生堂・みらい開発研究所に所属する岡崎 俊太郎(おかざき しゅんたろう)氏ら研究チームは、マスクの常時着用により、人はマスクで隠された表情をカバーするために、目の周りの筋肉の動きが増加していたと発表しました。
目ヂカラは目の印象に対する用語ですが、マスクで表情が制限された人類は、目ヂカラ(筋力)が上がっていたようです。
研究の詳細は、2021年10月13日付の科学誌『Scientific Reports』に掲載されました。
マスクをしていると目の筋活動が増加する
岡崎氏ら研究チームは、マスクの着用が、表情を介したコミュニケーションにどれほど影響を与えるか調査したいと考えました。
そこで20人の日本人女性を対象に、マスクを着用している時としていない時で表情にどのような違いが生じるか調べることにしました。
参加者たちに笑顔や会話が伴うさまざまなタスクをこなしてもらい、顔の筋肉の動きを筋電図(EMG)で測定したのです。
チームが特に注目した部位は以下の3つであり、どれも笑顔や会話に関係する表情筋でした。
- 眼輪筋(がんりんきん):目を動かすときに働く目の周辺の筋肉
- 大頬骨筋(だいきょうこつきん):口角を引き上げる筋肉であり、目の横から口角につながっている
- 口角下制筋(こうかくかせいきん):口角を下に引っ張る筋肉であり、口角から顎下につながっている
そして調査の結果、マスクを着用すると、笑顔のときに眼輪筋の活動が増加すると判明しました。
つまり表情筋の中でも特に目の周りの動きが増加していたのです。
逆に口周りの筋活動は、マスクの着用で変化することはありませんでした。
この原因について研究チームは、「マスク着用者が、マスクでコミュニケーションが妨げられることを心配しているから」だと指摘しています。
マスクで表情の大部分が隠れるため、目の周りの動きを大きくして何とかカバーしようとしている、というのです。
とはいえ、この効果がマスク着用者の意識的な努力の結果なのか、無意識でそうなっているのかは分かりません。
この点も明らかになるなら、さらに興味深いデータが得られるでしょう。
さて今回の結果から、人はコロナ禍で目の周りを酷使する傾向があると分かります。
最近、目の周辺が疲れやすいと感じているなら、マスク着用時のコミュニケーションが原因かもしれません。
意識的に目の周りをケアしてあげると良いでしょう。
参考文献
Mask wearing increases muscle activity around the eye during smiling, study finds
元論文
Mask wearing increases eye involvement during smiling: a facial EMG study
提供元・ナゾロジー
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