新型コロナは変異するごとに患者増、救急搬送困難つまり数時間以上も搬送先病院が決まらなかったり、搬送断念つまり搬送せず引き上げる事例すら度々発生している。

消防庁「救急・救助の現況」によると令和2年の救急車出動664万件弱、搬送598万人弱に対し令和3年は593万件強、搬送529万人強と一割ほど減ったが、到着所要時間は8.9分(令和2年8.7分)病院収容所要時間40.6分(同39.5分)と延長している。搬送困難等のため所要時間が延長し、搬送能力が奪われている可能性がある。

新型コロナが開けたパンドラの箱あるいはトロッコ問題
gyro/iStock(画像=『アゴラ 言論プラットフォーム』より引用)

新型コロナ以前から救急搬送の実に半分は「必要が無い軽症者」であり、救急車の適正利用「軽症で呼ばないように」国や医学界が呼びかけていた。新型コロナではマスコミや一部SNSユーザーが脅威を煽ったために、インフルエンザや風邪なら自宅で様子を見る程度の発熱や不調でも救急要請した可能性がある。逆に病院側はコロナ対応病床と人員が限られ応需できない。コロナ対応のため救急医療全体がパンクした可能性がある。

そこでトリアージが問題となる。日本は戦後民主主義で「平等」を国是とし、今や災害時にペットを「家族同様」と避難所に収容するほどだ。しかしもし食料が二人分で大人が二人、一人はペット連れならどう「平等に分配」するのか。

トリアージの有名な命題として「トロッコ(列車)問題」がある。列車が暴走した。先にポイント(分岐点)がある。直進したら行き止まりで脱線し全員が死ぬ。ポイントを切り替えればその先で減速できるが、作業員は退避できず死ぬ。どちらを選ぶか。これを小学校で出題したら保護者からクレームがついたそうだが、現実には二者択一を迫られる状況は少なくない。その対象が生命になるのが、医療の場である。

救急外来の空きベッドが1つ。90過ぎ寝たきり認知症で誤嚥(性肺炎)を繰り返す老人と、本来健康な子供が来た。どちらも臨床的には肺炎である。どちらを優先すべきか。

生命だけは平等と、90過ぎ寝たきり老人を優先する。その場は助かっても誤嚥性肺炎は繰り返すので遠からず死ぬし、意識が戻らず植物状態や人工呼吸器を外せない(まま死亡)かもしれない。人工呼吸器装着状態だと月に100万円以上、エクモであれば(適応外と想われるが)1000万円前後の医療費になる。老人医療制度により自己負担はわずかで大半は他人の保険料と血税で賄われるが、回復しない。

子供を優先したら。ほとんどは元気に回復し社会復帰し、未来社会を支えていく。年金、老人医療費さらに介護費は現役世代が支える世代間扶助だ。子供を救うことは生産そして老いた世代を支えることになる。

では、あなたが医師ならどちらを優先するのか。生命は平等だが、優先順位は付き得る。

タイタニック号の沈没では沈みゆく船からの脱出、ボートに乗る優先順位は

  1. 若い女性と子供
  2. 若い男性
  3. それ以外

と定められ皆が従ったという。トリアージし未来を産み支える者を優先し、限られたリソース(救命ボート)を利用する優先順位が明確だった。

「救急崩壊」が言われて久しい。新型コロナは国際的には死者が少ない我が国ですら「優先順位付け」が必要な状況になっている。平等は非常時には通用しない。

さらに超高齢化で年間死亡者数が増加し「看取り難民」、病院で看取れなくなる可能性すら言われ始めている。死に場所すら「トリアージ」が必要なほどに、我が国の医療はひっ迫しつつある。

故石原慎太郎氏は「日本人は幼稚化している」と喝破した。日本人、為政者は目の前の危機的問題から目を背け続け蓋をしてきたが、もはや避けえない。

新型コロナ死亡者のほとんどは80代以上、平均寿命前後で「天寿」と言える。年間約140万人死亡し死因5位前後は肺炎で年間12万人ほどが死亡するが、新型コロナ死亡者は2年で2万人に過ぎない。しかし他疾患や自殺は超過死亡が見られ、飲食店営業自粛施策による失職等の影響が考えられ、休校は子供の発達への影響も報告されている。

遠からず避けえない一部の死を一時避けるために「風邪程度で済む」大多数を巻き込み、「欲しがりません勝つまでは、一億総火の玉」まるで戦時下、そして未来ある若者が死んでいく。それで良いのだろうか。

文・五十嵐 直敬

文・五十嵐 直敬/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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