地球の内部には核(コア)があり、このコアは液状の外核と固体の内核で構成されているというのがこれまでの考え方でした。

しかし、中国科学院地球科学研究所(IGCAS)の研究チームは、地球内核が実際には、固体でも液体でもない特殊な相「超イオン状態」になっている可能性があるという研究を発表しました。

超イオン状態は極端な高温高圧環境で形成される物質の状態で、固体でも液体でもない両方の性質を併せ持った特殊な状態と言われています。

地球中心は一体どのような物質でできているのでしょうか?

この研究の詳細は、2022年2月9日付けで科学雑誌『Nature』に掲載されています。

目次
見えない地球内部構造の調査
固体でも液体でもない「超イオン状態」

見えない地球内部構造の調査

地球は中心部まで約6371kmの距離があります。

このとてつもない距離を、ドリルで掘り進んで調べることはできないため、研究者たちは地震波の伝播の仕方などを通じて、地球の内部構造がどのようになっているかをずっと研究してきました。

地球の内核は個体でも液体でもない「超イオン状態」の可能性がある
(画像=地球の内部構造は地震波の伝播を利用して調べられている / Credit: Doyeon Kim/University of Maryland、『ナゾロジー』より引用)

こうした調査を経て、明らかになった地球の内部構造については、誰もが一度は目にしたことがあると思います。

地下70kmまでは岩石の地殻であり、そのさらに下の70~670kmまでが上部マントル、670km~2890kmまでが下部マントルとなっており、それよりさらに地下深くが地球のコアと呼ばれる構造になっています。

ちなみに人類が掘り進んで直接確認できている場所は地殻までです。

エベレストが約9kmの高さであることを考えれば、地球地下深くの調査がいかに困難なものであるかは想像がつくでしょう。

地球の内核は個体でも液体でもない「超イオン状態」の可能性がある
(画像=地球の内部構造 / CreditWikipedia、『ナゾロジー』より引用)

地球のコアは2層に分かれているとされており、2890km~5150kmまでが液状の外核、そのさらに内部の地球中心から半径約1220kmの部分が固体の内核だと言われています。

この内核について、理科の教科書などでは鉄とニッケルの合金だと説明されています。

ただ、内核が実際どのようなものであるかは、未だ多くの謎に包まれていて、正確には解明されていません。

地球内核が固体である可能性は1930年代に示されましたが、その後、地震波のデータからは内核が柔らかく、せん断波の速度が遅いことが示されています。

この結果は、地球の内核が鉄などの固体であると予想された場合と異なるため、内核が実際どのような状態であるかについては、研究者の間で意見が分かれているのです。

今回の研究チームは、地球の内核が軽元素を含んだ場合、固体でも液体でもない特殊な状態になるだろうという予想を述べています。

研究チームは、その状態を「超イオン状態」と表現しています。

この超イオン状態とは、一体どういった状態なのでしょうか?

固体でも液体でもない「超イオン状態」

超イオン状態というのは、「液体」「固体」の両方の性質を持ったような奇妙な新しい物質の相のことです。

極端な圧力と温度を持った環境下では、水分子の水素原子と酸素原子の結合が強い熱によって溶かされます。

そして酸素原子は強力な圧力によって固体のように規則正しい結晶に再配列され、この酸素原子で構成された格子内を水素イオンが液体のように流れる状態になるのです。

これが超イオン状態と呼ばれる、特殊な物質の状態です。

地球の内核は個体でも液体でもない「超イオン状態」の可能性がある
(画像=超イオン水を示したモデル。酸素原子の格子内を水素イオンが液体のように流れている。 / Credit:en.Wikipedia、『ナゾロジー』より引用)

2021年に科学雑誌『Nature Physics』で発表された研究では、海王星や天王星のような巨大氷惑星の内部は、超イオン水である可能性が示されていました。

今回の研究チームは、地球内部も極端な高温高圧状態であるため、同じような超イオン状態が存在する可能性があると考えたのです。

超イオン状態を作るには、軽元素が含まれている必要がありますが、これについて、中国科学院地球化学研究所のホー・ユ(何宇:He Yu)氏は次のように説明します。

「炭素、酸素、水素などの軽元素は太陽系でももっとも豊富な化学物質であり、地球形成時に内核に取り込まれた可能性があります」

コンピュータシミュレーションと地震波による測定データを通じて、ホー氏と研究チームが、この可能性について調査したところ、地球内核の鉄合金は、軽元素を含んだ場合、天王星などの超イオン水と同様に振る舞うことがわかりました。

地球の内核は個体でも液体でもない「超イオン状態」の可能性がある
(画像=超イオン状態の地球内核のイメージイラスト / CreditInstitute of Geochemistry、Chinese Academy of Sciences,Earth’s Inner Core: A Mixture of Solid Fe and Liquid-like Light Elements (2022)、『ナゾロジー』より引用)

拡散性の高い軽元素は、地震波の速度に影響を与える可能性があり、これがせん断波の大幅な速度低下の原因となっている可能性があります。

そのため、現在の観測されている地球内部を伝わる地震波の振る舞いは、超イオンモデルで説明可能だというのです。

もし地球の内核が、鉄元素の格子内を軽元素が液体のように流れる超イオン状態だった場合、これは地球磁場の発生方法に関する新しい理解を提供する可能性があり、ポールシフトのような現象についても新しい洞察が得られるかもしれません。

私達の足元は、遠い宇宙以上に未開拓のフロンティアになっていると、研究者は語ります。


参考文献

Earth’s Inner Core: A Mixture of Solid Fe and Liquid-like Light Elements

The Iron of Earth’s Inner Core Could Be in a Strange ‘Superionic’ State, Study Finds

元論文

Superionic iron alloys and their seismic velocities in Earth’s inner core


提供元・ナゾロジー

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