ロボットや乗り物の「変形(トランスフォーム)」はロマンある機能ですが、なかなか現実でお目にかかることはありません。

しかしアメリカ・バージニア工科大学(Virginia Polytechnic Institute and State University)機械工学科に所属するマイケル・バートレット氏ら研究チームは、可逆性と可塑性を兼ね備えた新しい材料を開発することで、シンプルな変形機構を実現しました。

この新材料を利用したドローンでは、機体を変形させることで「空を飛ぶ」ことも「陸を走る」ことも可能だといいます。

研究の詳細は、2022年2月9日付の科学誌『Science Robotics』に掲載されました。

目次

  1. 日本の切り紙を応用! 可塑性と可逆性の両方を持つ材料を開発
  2. トランスフォームする陸空両用ドローン

日本の切り紙を応用! 可塑性と可逆性の両方を持つ材料を開発

通常、ロボットやドローンを変形させるには、複数のパーツとギア、また小さなモーターをたくさん使わなければいけません。

しかしこれでは構造が複雑になり、重量も大きくなります。

もっとシンプルな変形はできないのでしょうか?

例えば、1つのパーツを何度も折り曲げたり元に戻したりでき、しかも変形した後に強度を維持できるような材料があれば、より自由な変形・解除が可能になるはずです。

そこで研究チームは、可逆性(元の形に戻る性質)と可塑性(変形してその形を維持する性質)の両方の性質を併せ持った「欲張りな」材料を開発したのです。

彼らがインスピレーションを受けたのは、日本の「切り紙」です。

切り紙は紙を切って造形する芸術の1つですが、チームは、幾何学模様の切り紙が「変形」と「強度の保持」に役立つと考えました。

ロマンの塊! 車両と航空機への変形機構を備えた「陸空両用ドローン」
(画像=切り絵を応用した新しい材料 / Credit:VPI_New soft robot morphs from a ground to air vehicle using liquid metal(2022)、『ナゾロジー』より 引用)

そして切り紙のような網目構造のゴムチューブの中に、低融点合金を注入。

この合金の融点は60℃であり、少し加熱するだけで液体になるという特徴があります。

ゴムチューブの中には細い糸状のヒーターも組み込まれているため、合金は少しの操作で固体から液体へと変化させられるのです。

ロマンの塊! 車両と航空機への変形機構を備えた「陸空両用ドローン」
(画像=ヒーターの熱で形が元に戻る / Credit:VPI_New soft robot morphs from a ground to air vehicle using liquid metal(2022)、『ナゾロジー』より 引用)

つまりこの新しい材料は、力を加えると変形し、そのまま形が維持され、網目構造により強度も保たれます(可塑性)。

しかも加熱することで合金が液体に戻るので、元の形に戻ることもできる(可逆性)のです。

そしてチームは、この可逆性と可塑性を兼ね備えた新しい材料を使って、変形ドローンを作製しました。

トランスフォームする陸空両用ドローン

ロマンの塊! 車両と航空機への変形機構を備えた「陸空両用ドローン」
(画像=陸空両用ドローン。何度も変形できる / Credit:IEEE Spectrum(YouTube)_Shape morphing mechanical metamaterials through reversible plasticity(2022)、『ナゾロジー』より 引用)

研究チームは、新しい材料1枚にプロペラと車輪、モーターを取り付けることで、車両と航空機へトランスフォーム可能な「陸空両用ドローン」を作りました。

「車両モード」では、機体が半分に折り重ねられた形状になって、4つの小さな車輪で地上を走行します。

しかし材料内部にヒーターで熱を加えると、機体は平らな形に戻り、「飛行モード」に変形するのです。

面白いのは、「車両モード」の4つの車輪が「飛行モード」では4つのプロペラの回転モーターとして機能しているところです。

これにより、従来の飛行ドローンと同じように空を飛ぶことができるのです。

ロマンの塊! 車両と航空機への変形機構を備えた「陸空両用ドローン」
(画像=新材料を用いた潜水ドローン / Credit:VPI_New soft robot morphs from a ground to air vehicle using liquid metal(2022)、『ナゾロジー』より 引用)

またチームは、同じ材料を用いた潜水ドローンも開発。

実験では、ドローン上部と下部が平らな状態から袋の形に変形することで、水槽の底にたまったオブジェクトを回収することに成功しました。

さて今回の開発と実験により、新しい材料がもつ変形性能の有用性が示されました。

今後チームは、自己修復可能なマシンの開発など、この材料をさまざまな分野に適用していく予定です。

参考文献
New soft robot morphs from a ground to air vehicle using liquid metal
Shape-shifting Robots Adapt With Cleverly Designed Bodies, Grippers
元論文
Shape morphing mechanical metamaterials through reversible plasticity

提供元・ナゾロジー

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