メタンはCO2に次ぐ温室効果ガスとして知られている。IPCC報告を見ると、過去、CO2による温暖化が約0.8℃だったのに対してメタンは約0.5℃の温暖化を引き起こした、としている(下図の左から2番目のMethane)。

そして、メタンの濃度は600ppb程度で過去2000年の間安定していたが、1850年ぐらいから急激に上昇し、いまでは約3倍の1866ppbに達したとされる。

・・・と見ていると、すわ、メタンを減らさないと大変だ、という気分になりがちだが、じつはそうでもない。
本文5章中にある次の図を見ると、メタンには
人為的発生源(Anthoropogenic)として、化石燃料産業や酪農・水田、それに廃棄物処理等があるが、 湿地などの自然排出源(Natural sources)も大きい。 加えて、
大気中ではOHラジカルとの反応で9年程度で分解される等、自然減もある(Total Sinks) ということが分かる。
大気中のメタン濃度はこのバランスで決まるが、結構な振動がある。だいたいは右肩上がりで増えてきたが、2000年代初めの数年は、いくら人為的にメタンを排出しても、まったく濃度が増えなかった(図中の折れ線、右軸)

なぜこんな不思議なことが起きるかというと、詳細は議論が百出している状態で理由は定かになっていない。
ただ言えることは、メタン濃度が高くなった現在の状態では、メタンの分解量が多くなり、人為的な排出量とほぼバランスしているということだ。
Connolly(2020)の分かり易い図を紹介しよう。

すなわち、(a)でメタン濃度は徐々に増えているが、(b)を見ると人為的排出が増えているのに対して、濃度は殆ど増えていない。(c)でairborne fraction(大気に残る割合)としているのは、大気中のメタン量の増加を人為的排出量で割った値である。すると、平均して、人為的排出量の僅か7%ずつしか大気中のメタンの量は増えていない。
メタンの濃度がほぼ飽和していることは、IPCCのシナリオにも反映されてきた。Connollyによる下図を見ると、極端に排出が増えるRCP8.5は例外として、より現実的で排出量が今後あまり変化しないRCP4.5やRCP6.0の場合でも、大気中の濃度は今後は急上昇をすることなく、あまり増加せずほぼ横ばいである。Airborne fractionをみても、過去の平均の0.7よりもさらに低くなっている。(図中でThis studyとなっている部分は説明を割愛する)



メタンの地球規模のバランスについてはまだ科学的によく分からないことが多いが、すでに大気中のメタンの量は飽和状態にあり、現在の世界の排出量を継続してもほとんど増えなくなっているということは朗報だ。今後、メタンによる温暖化が激しくなることを心配しなくてよいからだ。
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1つの報告書が出たということは、議論の終わりではなく、始まりに過ぎない。次回以降も、あれこれ論点を取り上げてゆこう。


文・杉山 大志/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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