バロンズ誌、今週のカバーはオンライン賭け業者を取り上げる。第56回スーパーボウルを13日夜に控え、オンライン賭け業者は大忙しだ。特に今年は、人口1.3億人を抱える全米30州とワシントンD.C.で合法となり、賭け金は前年比78%増の76億ドルに達すると見込まれる。

米国ゲーミング協会(AGA)によると、オンラインでの賭けが合法化されてから4年間で、スポーツへの賭け金は570億ドル、賭け業者の売上高は43億ドルと、そろって1,000%近く増加したという。ニュージャージー州での掛け金は2021年に109億ドルにのぼり、同州の人口に落とし込めば1人当たり1,200ドルつぎ込んだことになる。

しかし、米国ではまだこのビジネスは黎明期にあり、一握りの企業が地位を争い、新しくオープンした州には顧客獲得のための広告が殺到する状況だ。モフェットネイサンソンのアナリストによれば、賭け業者はドラフトキングス、MGMリゾーツ・インターナショナル、フラッター・エンターテイメンツ、ファンデュエル、シーザーズ・エンターテイメントなどの少数の企業が市場の8割を握る。

ドラフトキングスによれば、足元で約40億ドルのスポーツ・ギャンブルへの掛け金は、市場が成熟すれば220億~360億ドルに膨らむ見通しだ。米国でのオンライン・ギャンブル市場の展望と注目銘柄など詳細は、本誌をご覧下さい。

当サイトが定点観測する名物コラム、アップ・アンド・ダウン・ウォール・ストリート、今週は全米の人口の3分の1が視聴するという米国の一大イベント”スーパーボウル”と、スーパーボウルのスポンサー広告をテーマに掲げる。抄訳は、以下の通り。

13日に開催されるスーパーボウルは、フットボールの試合というより脂肪を貯める日に変わってしまったも同然だ。北国では避けられない厳しい冬に合わせ、SAD-季節性感情障害を食い止めるべく、人々はこの時期にキリスト教にある7つの大罪の一つである暴飲暴食に走りがちだ。

スーパーボウルには、市場関係者が注目するアノマリーがある。ナショナル・フットボール・カンファレンス(NFC)に属するチームが制すればその年の米株は上昇、逆にアメリカン・フットボール・カンファレンス(AFC)側のチームであれば米株相場は下落するというものだ。

LPLフィナンシャルのチーフマーケットストラテジスト、ライアン・デトリック氏によれば、この指標は一時期は高い的中率を誇ったが、S&P500は過去11回のAFC勝利者のうち10回で米株は上昇したように、今ではそれほど当てにならない。デトリックス氏は、より良い指標としてブレイディ・インディケーターを挙げ、トム・ブレイディ選手が在籍したチームが10回優勝したうち7回は米株高を迎え、下落はたった3回だったと指摘する。しかし、ブレイディ選手は今年引退を発表したため、この指標はお蔵入りとなってしまった。

スーパーボウルが単なるスポーツイベントであると同時に、この日は広告業界にとって1年で最も重要な日だ。足元でオンデマンド配信が浸透し視聴者を分散させているものの、スーパーボウルは話は別で、皆が一堂に会し一つの番組を視聴するためだ。また、視聴者は試合と同じくらいかそれ以上に、コマーシャルにも注目している。

たった30秒間のために、企業は何百万ドルも払ってスーパーボウルに広告を投じてきた。常連は、ビールやお酒に合う塩味のスナック菓子を提供する企業などだが、他の企業がどのような方法で参入してくるかが、米株市場にインプリケーションを与える点に留意すべきだ

シーブリーズ・パートナーズの代表であるダグ・カス氏によれば、どんな企業でも大手放送局で広告を出せば出すほど、そのグループの株価は翌年には下落する可能性が高いという。カス氏はITバブル崩壊直前の2000年にこうした分析を寄せ、当時はインターネット関連企業の広告が大量に投入されたことで、その企業の暴落を予想した。その数週間後にバロンズ誌も、ドットコム企業が株式市場から得た資金を猛烈な勢いで使い果たしつつあると伝えたものだ。

2021年に時を移すと、カス氏はによれば食品・飲料メーカーが通常を超える広告を投じていた。コロナ禍で経済活動が停止しステイホームを余儀なくされ、食事やお酒しか楽しみがなかった人々に合わせたためだ。その年、アンハイザー・ブッシュ・インベブはバド・ライトの広告を大量に展開したが、2021年は14.3%安に。ユニリーバはヘルマンのマヨネーズを広告でプッシュしたが、同社の株価は12.02%安、ケロッグもプリングルスの広告を強化したが3.9%安と、そろってS&P500の28%高を下回るパフォーマンスに終わった。

さらに、2021年はゲームストップに代表されるミーム銘柄が急変動していた頃、ロビンフッドがスーパーボウルに広告を展開した。J.P.モルガン・チェースのグローバル・クオンティテーティブ・デリバティブ・ストラテジーのニコラス・パニギルゾグロウ氏によれば、ロビンフッドを通じた個人投資家の取引のシェアは2021年2月末までに14.1%と、パンデミックに入ってから最低を更新した。ロビンフッドの株価も、2021年の初めにつけた最高値から83.9%も急落している。

画像:ロビンフッドのスーパーボウル広告

(出所:Youtube)

今年は、自動車大手や食品メーカー、ビール業者、旅行代理店などがスーパーボウルの広告に戻ってきている。さらに、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙によれば、仮想通貨の業者も、700万ドルずつ投じたという。

そこには、トレーディング・プラットフォームのFTXが含まれ、スーパーボウル開催にあたって数百万ドル相当のビットコインを配布する見通しで、広告塔に今年引退したブレイディ氏を用いる。さらにFTXは、メジャーリーグと5年間のスポンサー契約を結び、全米バスケットボール協会(NBA)とは、マイアミ・ヒートの本拠地の命名権を獲得した。

NBAのホーム命名権については仮想通貨業はとして2社目で、シンガポールの仮想通貨プラットフォーム企業のクリプト・ドットコムが7億ドルで買い取ったため、旧ステープルス・センターはクリプトドットコム・アリーナとして21年12月に生まれ変わった。彼らの広告には、アカデミー俳優のマット・デイモンが登場する。

カス氏は、仮想通貨とスポーツ業界との間での提携が”熱狂”の水準に達していると分析する。2000年にITバブルが崩壊した過去を踏まえれば、カス氏のへのメッセージは「仮想通貨をショートせよ」だろう。

もちろん、ITバブル崩壊によりドットコム企業の株価が暴落し多くが倒産に追い込まれたが、インターネットが消滅したわけではない。むしろ、インターネットは、私たちのビジネスや個人生活に欠かせない存在となり、その範囲は、ほとんど想像もつかないほど広がっている。しかし、インターネットのパイオニアたちの多くは、当局が資金調達の蛇口を閉めた時、生き残ることはできなかった。

チップスやチキン、ビールと一緒にスーパーボウルを楽しめばいい。ただ、もし仮想通貨で遊びたいのであれば、少なくともITバブル崩壊前のような熱狂があることを留意して損はしないだろう。

――バロンズ誌の名物コラム、仮想通貨業者のスーパーボウル広告参入を受け、ドットコムバブル企業との類似性を指摘していましたが、米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策面からも、緩和から引き締めに転じる局面ということで同じですよね。

足元、Fedを始め各国中銀がコロナ禍での超緩和策から脱却を図るなか、ビットコインを始め仮想通貨から資金がシフトしていますが、過剰流動性が確保されなければリスク資産から資金が流出するのは、自然な流れです。

2021年7月FOMC議事要旨が8月18日に公表され、年内にテーパリングに着手する方針を打ち出してから、ナスダックなどと再び連動し始め退避資産としての光を失いつつあることも下落要因となったことでしょう。2022年の初めこそ、ビットコインの発行数が2,100万枚のところ今年1月時点で1,890万枚が採掘されているだけに、供給不足から「ビットコインは1万ドル超え」の予想が飛び交っていました。しかし、足元ではボラティリティの上昇もあって、ビットコインについてはアナリストの間でフェアバリューが見直されつつあります。

チャート:ビットコインとナスダック、21年8月以降に連動性が高まる

バロンズ:スーパーボウル広告に仮想通貨業者が参入―甦るITバブル崩壊の記憶
(画像=作成:My Big Apple NY、『アゴラ 言論プラットフォーム』より引用)

また、採掘業者が手持ちのビットコインを売却し、保有高は2月5日には21年11月半ば以降で初めて純減したとか。資金難に加え、採掘するための機材が高価になり、ビットコインを売却せざるを得なくなっているんですね。ビットコインが金と違ってインフレ・ヘッジの資産ではない、という一つの証左になったと言えそうです。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2022年2月13日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

文・安田 佐和子/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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