このごろ久しぶりに「インフレ」ということばを聞くようになりましたが、よい子のみなさんは何のことかわからないと思います。
Q1. インフレって何ですか?
正しくは「インフレーション」といい、商品やサービスの値段が上がることです。物価は消費者物価指数(CPI)であらわしますが、図のようにこの20年で3.5%しか上がっていません。

Q2. 最近インフレになってきたのはなぜですか?
アメリカではCPIが去年より6.2%上がり、日本でも企業物価指数が8.0%上がりました。世界的にコロナ後の不況から回復し、原油や天然ガスなどの資源価格が上がっているので、物価が上がっているのです。

日本のCPIは、今のところ9月の総合指数で0.2%です。でも企業のコストが物価に上乗せされるのは時間がかかるので、今年末には上がるかもしれません。
Q3. なぜコストが上がっているのに値上げしないのですか?
日本人はこの20年ぐらい物価が上がらないことになれているので、値上げを恐れているんだと思います。これを経済学の考え方で説明すると、屈折需要曲線といいます。

上の図は渡辺努さんの説明ですが、みんなが同じ価格なのに1社だけ値上げすると目立つので、少しの値上げで需要が大きく落ちて売り上げが減ってしまうのです。
Q4. でも値上げしないと損するのではありませんか? そこで定価を上げないで分量を減らすステルス値上げが起こっています。「ステルス」というのは「隠密」という意味です。

こんな感じで、目立たないように少しずつ量を減らすのでシュリンクフレーションともいいます。これはシュリンク(縮む)ということばとインフレーションの合成語です。
Q5. インフレはいいことなんですか?
物価が2%上がると同じ所得で買えるものは2%減るので、インフレはいいことではありません。「デフレ不況」などというのは錯覚で、デフレになると同じ所得で買えるものは増えるので実質賃金は上がり、サラリーマンは豊かになるのです。
インフレもデフレも景気変動の結果なので、結果を変えて原因を変えることはできません。風邪をひいて熱が出たとき、体温計を冷やしても風邪がなおらないのと同じです。
Q6. でも日銀は2%のインフレ目標を設定していますね?
この理由は2つあります。一つはインフレにして実質賃金(給料-インフレ率)を下げることです。日銀が「賃上げ要請」するのは変な話で、インフレ目標は実質的な賃下げで利益を出すための目標なのです。
もう一つは実質金利(金利-インフレ率)を下げることです。
Q7. 何のために実質金利を下げるんですか?
これはむずかしいのですが、自然利子率(実体経済が均衡する実質金利)がゼロより低いときは、政策金利をゼロにしても、それ以上金利を下げることができません。そこでインフレにして実質金利を下げるのです。
たとえば自然利子率がマイナス2%だとすると、政策金利がゼロでも2%のインフレにすると、
政策金利-インフレ率=-2%
なので、実質的なマイナス金利にできて自然利子率と同じになり、実体経済のバランスがとれます。
Q8. でも日銀はマイナス金利にしてますね?
日銀はいま0.1%のマイナス金利にしているので、インフレにする意味はありませんが、円安に誘導するためにインフレぎみにしているのです。
Q9. インフレになるとどうして円安になるのですか?
これもむずかしいのですが、物価が上がるということは、お金の価値が下がることですから、円が安くなります。これで輸出する商品の価格が海外で安くなり、景気がよくなるはずです。
そこで日銀の黒田総裁はインフレ目標で円安に誘導したのですが、貿易黒字は増えず、海外法人の利益(所得収支)が増えました。これは悪いことではないのですが、国内の雇用は増えず、賃金は下がってしまいました。
Q10. これからインフレになるんでしょうか?
日銀は8年以上、お金をばらまいてきましたが、インフレにならなかったので、需要曲線は屈折していると思います。でもシュリンクフレーションで対応できる商品は限られているので、電気代などのサービス料金は上がるでしょう。
Q11. 日銀はインフレを止められるんでしょうか?
日銀が想定しているのは、お金が増えて物価が上がるインフレなので、今回のようなコストプッシュの資源インフレにはききません。ステルス値上げでコストがカバーできなくなった企業が、横並びで値上げするかもしれません。
こういうインフレ予想が起こると、日銀が止めることはできません。金利を上げても、天然ガスの価格は下がらないからです。1970年代にはOPECの原油値上げで世界的なインフレ予想が起こったので、実際の原油の値上げの何倍もインフレになりました。資源インフレを防ぐには、原発を動かして電気代を下げるなど、実体経済をよくすることが大事です。
文・池田 信夫/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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