古木は森全体を支える「重要な存在」だったようです。

米国CTS(Center for Tree Science、樹木科学センター)の研究によれば、古木は森の中で特異な存在であり、森の生態系全体に遺伝的多様性を与える存在である可能性が高い、とのこと。

周囲の樹木よりも圧倒的に高齢な古木の存在は信仰の対象となるなど特別視されてきましたが、実際遺伝的にも周囲の木と大きく異なる「特別な存在」であるケースが多いようです。

最新の自然科学が古木の神秘を解き明かします。

研究の詳細は、2022年1月31日付で科学雑誌『Nature Plants』にて掲載されました。





長老の木は森を支える遺伝子を供給していると判明!
(画像=『ナゾロジー』より 引用)

古木は森を支える遺伝子を供給していると判明!

古木は森の中で「浮いた存在」である可能性が高いと判明! / Credit:Canva . ナゾロジー編集部

樹木は私たち動物とは異なり、何百年・何千年と生き続けることが可能です。

そのため森の中にはときに、周囲の木の年齢の10~20倍以上にも及ぶ古木が誕生します。

私たち人間の文化はそのような古木に対して、古くから畏敬の念を抱くと共に、信仰の対象にもしてきました。

そこで今回、CTSの研究者たちは、飛びぬけて年齢の高い木がどのようにして出現するのか、また森全体にどのような影響を与えているかを調べることにしました。

といっても、古木の成長過程を実測することはできません。

そのため調査にあたっては主にシミュレーションが用いられました。

といっても、古木の成長過程を実測することはできません。

そのため調査にあたっては主にシミュレーションが用いられました。

研究者たちは、1年あたりの木の死亡率や環境変化を数値化し、さまざまな条件で1万5000年にわたる期間での森の成長過程をシミュレートしました。

結果、飛びぬけた年齢を持つ古木は、周囲に生息する木々とは最適とする環境が異なる遺伝的に「浮いた存在」であることが示されました。

樹木の寿命は長いため非常に高齢の木では、定着した時期と現代の環境が変化している場合があります。

これにより数百年から数千年を経た現在に生息する若い木々とは、好む環境そのものが違っており、これが森の中でも古木を遺伝的に特異な存在にしていたのです。

(※極端な例で言えばイチョウの森に、1本だけカシの古木があるような状態)

そのため人間が長寿の木を神聖なものに感じた秘密は、この特異な遺伝的要素にあったのかもしれません。

また研究者たちはシミュレーションの結果から、周囲と異なる古木の遺伝子は、森全体の遺伝的多様性を維持するのに役立っていることを発見しました。

環境が激変して現在の森の主流派となる木々の生育が困難になった場合でも、さまざまな時代の異なる環境で生育した古木たちがいる場合、森は速やかに回復することが可能になります。

そのため森にとって古木は、異なる環境に適応する遺伝子を撒き散らしてくれる、貴重な存在だったのです。

古木の喪失は、そのような遺伝的な資源を失うことにつながり、森にとっての損失は計り知れないものとなります。

研究者たちは古木を保護することが、森全体の生存性を高めることにつながると結論しました。

チームは今後も、古木に焦点をあてた研究を行い、世界中の森林の適応力を高める手段を探していく予定です。

長老の木は森を支える遺伝子を供給していると判明!
(画像=ゲームでも長老の木は主人公に重要な情報を与える存在だったりするが、現実の長老の木も古い遺伝情報を伝えて森を支える存在だった / Credit:任天堂,ゼルダの伝説 時のオカリナ、『ナゾロジー』より 引用)

人間のコミュニティにおいても、古い知識を持つ長老は重要な存在ですが、会話ができない樹木たちにとっても、長老の木は古い時代の遺伝情報を伝えるという意味で重要なコミュニティの支えになっていたようです。

提供元・ナゾロジー

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