人工衛星のセキュリティ向上へのアプローチ
ここまで、まだ十分とは言えない人工衛星のサイバーセキュリティについて検討してきました。もちろん、人工衛星でも全く対応していないというわけではなく、複数のアプローチでセキュリティを高める工夫が行われています。
この章では、実際に行われているセキュリティ向上アプローチについてご紹介します。
従来のアプローチ:CCSDS暗号アルゴリズム
現在、人工衛星においてよく用いられている通信方式としてCCSDSという通信方式があります。
CCSDSが推奨している暗号化の方式としてCCSDS暗号アルゴリズム(CCSDS 352.0-B-1)というものがあります。

CCSDS暗号アルゴリズム推奨規格では、宇宙機および地上システムのいずれにおいても、単一の対称ブロック暗号アルゴリズムである「Advanced Encryption Standard (AES)」(図1)の、カウンター(CTR)モード(図2)、最短鍵長128bitを使用して機密性を確保するよう推奨しています。
最近のアプローチ:ホワイトハッカーによるコンテスト
これまでの対策に加えて、最近ではホワイトハッカーによるハッキングのコンテストも開催されています。

アメリカでは空軍と宇宙軍が協力して、衛星のサイバーセキュリティに関するコンペを開催しています。
参加者は、Capture the Flag形式※のコンペで、自身の衛星システムを守りながら、相手のシステムに攻撃をしていきます。
2020年に開催された第一回の大会では、最終ラウンドにおいて世界で初めて軌道上にあるアメリカが運用する衛星へハッキングする挑戦が行われました。
第二回となる今年の大会は、2021年12月11日に開催される予定で、1位に5万ドル、2位に3万ドル、3位に2万ドルの賞金が与えられます。
※Capture the Flag形式
情報セキュリティのスキルを用いて、課題の中から隠された答えとなるFLAGを見つけ出し、得点を稼ぐ競技形式
Space Security Challenge 2021: Hack-A-Sat 2
アメリカは小型衛星を増やすことで、攻撃の対象を分散させる狙い

様々な脅威が高まるなか、高価で希少な人工衛星の脆弱性が浮き彫りになっています。
そこで、アメリカ宇宙開発庁(SDA)は、数百機以上の安価な小型衛星を打ち上げて、通信・測位・偵察・宇宙状況監視・ミサイル追尾などを行う「国防宇宙アーキテクチャー(NDSA:National Defense Space Architecture)」計画が進展しています。
大手IT企業も注目する宇宙のサイバーセキュリティ
また、Microsoftは2021年6月、アメリカの Space Information Sharing and Analysis Center(Space ISAC)の設立メンバーとして参加することを発表しました。
Space ISACは宇宙のサイバーセキュリティに関する情報共有を行う組織で、2021年のSmall Satellite Conferenceでも小型衛星のサイバーセキュリティに関するセッションを主催しています。
Microsoft Joins Space-Focused Threat Intelligence Sharing Community
クラウドベースの衛星運用プラットフォームを開発するSpaceit社は、2021年8月、プレシードラウンドとして1.3億円を調達し、サイバー攻撃に対するシミュレーターの開発を進めています。
Spaceit’s Pre-Seed Funding Garners 1 Million Euros For Satellite Ops + Space Cybersecurity Solutions
このように、巨大IT企業から宇宙ベンチャーまで今後も宇宙に関するサイバーセキュリティの話題が増えていくものと思われます。
まとめ
本記事では、人工衛星のサーバーセキュリティを、先を行く自動車の事例と比較しながら整理しました。
ハッキングする側の技術の向上や、NEW SPACEと呼ばれる宇宙ビジネスの新しい潮流の中で、宇宙ビジネスにおける「サイバーセキュリティ」はますます重要な地位を占めていくものと考えられます。
日本では法整備含めてこれから推し進めていく段階であり、今後の政策・技術動向に注目です。
提供元・宙畑
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