衛星・ドローンによるモニタリングチーム、1年目の成果は?

――デブリス・ウォッチャーズによる衛星・ドローンによるごみ漂着状況診断システムの実績を詳しく教えてください

上野:衛星画像による成果ですが、海外の光学衛星やSAR衛星の画像を組み合わせ、長崎県対馬市、島根県益田市、沖縄県の拠点で海ごみの有無を解析し、海から漂着したごみを画像を元に抽出、識別する技術が開発できました。たとえば、砂浜清掃の前後の画像を比較すると、変化量を抽出することができて「砂浜清掃により海ごみがなくなった」ということがわかるようになります。こうした独自手法を開発し、それを応用して2020年8月に発生したモーリシャス島沖での商船からの重油流出事故の際には、流出する範囲を推定することができるようになり、成果をプレスリリースしています。

海のごみ対策をボランティアで終わらせない。プロジェクト・イッカクが目指す海ごみ削減のための「経済システム」とは
(画像=2020年8月に発生したモーリシャス島沖での商船からの重油流出事故の流出範囲推定 Credit : Debris Watchers Source : coastal-cleanup-satellite-drone.com/news/447/、『宙畑』より引用)

衛星画像を使って広域で海ごみの集まる場所を広域で観測し、さらにドローンでその詳細を識別することもできています。高度によって解像度が異なるなどの運用データもわかってきて、発泡スチロール、漁網、海洋ブイ、木材、流木など9種類を識別できるようになりました。

加えて、農業用の定点観測デバイス「KAKAXI(カカシ)」も組み合わせて利用しています。もともとは温度、雨量などを取得するもので、撮像した画像を解析することもできます。定点観測デバイスを使うことで、海岸清掃後ごみの再集積のプロセスを解明することができます。ただ、海岸での風の影響を測りきれていなかったので、1年目はデバイスを固定するといった調整がかなり必要になることがわかって、こうした点が実証実験ならではの成果ですね。

こうした成果を元に、日本の海ごみ観測予算を置き換えるビジネス化を目指しています。現状は自治体職員が海岸を監視して清掃している状況ですが、自治体向けにデータを販売することを目標にしています。日本の海ごみ全体の状況を把握することもこれから課題になってきます。海ごみ資源化チームと組み合わせて、資源化できる海ごみが集積している場所を「海ごみ削減コミュニケーションサイト」に情報表示するといったことも考えられますね。

2年目に入ったプロジェクト・イッカク

――ビジネス化を目指す2年目の年、各チームはどのような方向を目指していくのでしょうか?

上野:日本で海ごみを観測しているのは10数カ所ほど。海ごみが表面化、問題化していない地域は多くあって、はっきり言うと公的な予算が降りてきていない地域では放置されている状況があります。それならば、デブリス・ウォッチャーズの情報を元に可視化、データベース化してしまい、まだ対応していない地域に対応を促すことができるようになります。さらにサービスとして回収活動を提供したり、資源化チームが入って燃料化したりといった活動によって「ごみがあるほど儲かる」という転換を生む事ができます。「むしろ可視化してほしい」という要望が生まれる、ブレイクスルーを「作る」方法ですね。こうした活動こそ民間が入る意味だと思っています。

プロジェクト・イッカク全体の2年目の課題は、認知向上ですね。海外の海洋関連のサミットに出展するなどの展開によって国境をまたいだチーム作りも可能になります。2年目以降は大企業のパートナーを集め、CSR事業などに組み込んでもらうことで事業のスピードアップや拡散力向上につながります。プロジェクト・イッカクのチームの作り方自体がさまざまな社会課題に応用できると思っていますので、方法論を発信していくことも考えています。

プロジェクトの取り組みが広がっていくことで、各チームに対して「部分的にこのサービスがほしい」といった要望が出てくるかもしれません。むしろそういった要望を洗い出しどこにニーズがあるのかしっかりとらえなくてはならない時期に来ています。結果としてビジネスモデルの組み直しも必要になるかもしれません。

編集後記

「海ごみ」削減という言葉に反対する人はいないと思いますが、生活ごみから漁業関連の廃棄物、プラスチックや木材などが入り交じるゴミ問題に、ボランティア活動の海岸清掃だけで対応していくのは無理があります。こうした大きすぎてどう対応してよいかわからない課題に、「異業種チーム形成」「事業化」「ベンチャー中核」といった枠組みをリバネスが作っていくことで、課題解決の緒が生まれていくプロセスを上野さんにうかがいました。衛星データ活用はその活動のキーになる一つですが、「衛星で海ごみ状況が把握できます」という技術シーズだけでは全体が見えにくいことにも気付かされます。異業種、異なる技術の組み合わせから海ごみ対策が有機的に回り始め、日本各地の海岸で静かに機能するときがゴールなのでしょう。

提供元・宙畑

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