エジソンと電力戦争を繰り広げたことでも有名な科学者ニコラ・テスラ。
彼は100年前に、可動部品を利用せずに形状だけで流体の方向を制御する独創的なバルブの特許を取得しています。
ニューヨーク大学の研究チームは、これまで本格的な研究がされていなかった、この通称「テスラバルブ」の流体力学を徹底調査し、これまで知られていなかった新しい機能や現代でも通用する有用性を明らかにしたと報告しています。
天才テスラの発想は、100年を経てもまだ完全に理解されていなかったのかもしれません。
この研究の詳細は、科学雑誌『Nature Communications』で5月17日に公開されています。
目次
形状だけで流れを制御する「テスラバルブ」
電気の魔術師テスラが実現しようとしていたこと
形状だけで流れを制御する「テスラバルブ」
1920年にニコラ・テスラは、彼が「valvular conduit(バルブコンジット)」と呼んだ装置の特許を取得しました。
これは通称「テスラバルブ」と呼ばれていて、可動部品なしにパイプの形状だけで流体の逆止弁として機能するパルブです。
バルブというのは、流体を通したり止めたりするいわゆる水門や、逆流を防ぐ逆止弁のような装置のことです。
水道の蛇口や、ガス栓もバルブに含まれます。
こうした図説を見ると分かる通り、バルブとは基本的に稼働部品をともなっているため、長期間利用していると劣化しやすく、定期的なメンテナンスが必要な装置です。
しかし、100年前にテスラが考案した「テスラバルブ」このような可動部品を持っていません。
テスラバルブはしずく型のループを連結した変わった形状によって、順方向に対してはスムーズに流体を流すのに、逆方向に対しては流れを阻害するように機能します。
形状だけで流れを制御するため、テスラバルブは一般的なバルブと比べて非常に耐久性が高くメンテナンスフリーの装置として注目されています。
実際これを利用した道具の製作や、利用の検討などはいろいろされてきました。
しかし、この装置の徹底的な流体力学的調査は実はまだ行われていませんでした。
そこで今回、ニューヨーク大学クーラント数理科学研究所の准教授レイフ・リストロフ氏を始めとした研究チームが、本格的な調査を行ったのです。
その結果、テスラバルブには、これまで考えられていなかった機能や可能性があることが明らかとなったのです。
電気の魔術師テスラが実現しようとしていたこと
研究チームはまず、30センチほどのテスラバルブを実際に作成し、その機能を理解するために2つの流れを通す際の抵抗を測定しました。
チームは、流体の研究でよく使われる2色の流層を流して、その流れを見ています。
そして、実験の際、流体の圧力を調整して、流れる速度をゆっくりから徐々に速くして調べてみました。
すると、上の画像のように、ゆっくりと流体が流れた場合、流れの抵抗は逆方向に流してもほとんど発生しませんでした。
しかし、ある流速を超えると、突然装置にスイッチが入ったように乱流が発生し、逆流を大幅に抑制したのです。
しかも、流れに抵抗が発生する流速は非常に低速から起こります。これは流れを制御する力がかなり強いことを示すものです。
さらに、研究チームを驚かせたのは、テスラバルブが、普通の流れではなく、流体が振動するような動きをしたときに、より効果的に機能したことです。
振動するというのは、スムーズな流れではなく、流れが前後に揺れている状態です。
つまりは交流電流のような状態のことを指します。
テスラは電気の魔術師と呼ばれていましたが、その理由の1つは交流電流の発電装置を発明した点にあります。
発明王トーマス・エジソンとの確執も有名ですが、その原因の1つは独学で工学を学んだエジソンは、この交流がうまく理解できなかった点にあったといわれています。
エジソンは発電所を直流で作ろうとしていましたが、テスラは交流の方が送電のロスが少なく、直流よりはるかに扱いやすいことを理解していたため、発電所を交流で作るべきだと主張していました。
エジソンはこれに反発して、交流電流で象を感電死させる動画を作成し、交流は危険だとテスラのネガティブキャンペーンを展開したほどです。
エジソンとテスラの電流戦争は、また別のお話ですが、現在の発電所や家電がすべて交流電流で動いていることを考えれば、テスラがいかに優れた科学者だったかがわかります。
テスラは交流発電機の他に、AC-DCコンバーター(交流直流変換装置)も発明しています。
交流は送電に便利ですが、利用するために直流に変換する必要のある機械もあります。
この直流と交流の変換を整流といいますが、そのための装置がAC-DCコンバーターです。
テスラは電気に関する功績が有名ですが、あまり知られていないだけで流体力学にもかなり精通していました。
そのため、テスラは流体で交流を利用するということを想定していたのではないかと、研究チームは考えました。
そこで、研究チームはテスラバルブを使って、電気回路を模倣した流体のAC-DCコンバーターを作ってみたのです。
図のaがダイオードを使って設計されているAC-CDコンバーターの電気回路、bがダイオードをテスラバルブに変えて作られた流体の回路です。
ACは交流、つまり振動する動きを表し、DCは直流、つまりスムーズな一方向の流れを意味しています。
こうした回路を設計すると、なんと流体の振動がまるでポンプのように機能して、もう一方の通路に水を循環させる流れを生み出したのです。
つまり、流体の振動(交流)がスムーズな流れ(直流)に変換されたのです。
これは直接ポンプを組み込まなくても、エンジンや機械などの振動を利用して、ポンプのように冷却器や潤滑油、燃料、その他の気体や液体を送り出す装置に使える可能性があります。
これは未知の新しいシステムや装置の仕組みとして利用できるかもしれません。
リストロフ氏は、これが実際テスラが自分で作って確認していた機能かどうかは不確定だとしながら、偶然の発見ではないだろうし、交流に精通していたテスラならば何も不思議はないと話しています。
100年も経て、そんな利用法が発見されるとは、テスラとは本当に驚くべき人物です。
参考文献
Scientists Explore Tesla Roads Not Taken—and Find New Potential Present-Day Utility(NYU)
元論文
Early turbulence and pulsatile flows enhance diodicity of Tesla’s macrofluidic valve
提供元・ナゾロジー
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