「おしりかじり虫」が正式な生物名として仲間入りしました。

鹿児島大学大学院理工学研究科の上野大輔(うえの・だいすけ)准教授は、泥中に暮らすチワラスボというハゼに共生する奇妙な小型甲殻類を発見。

調査の結果、これが新種の甲殻類であると判明しました。

本種は新種生物として学名「Choreftria shiranui (コレフトリア・シラヌイ) 」と記載され、標準和名は上野氏の好きなキャラクターにちなんで「オシリカジリムシ」と命名されました。

研究の詳細は、2022年1月24日付で科学雑誌『Systematic Parasitology』に掲載されました。

目次

  1. 種の上位クラス「属・科」も新たに設立!

種の上位クラス「属・科」も新たに設立!

この新種生物が最初に見つかったのは、2021年5月のこと。

鹿児島北西部・出水市小次郎川の沿岸干潟にて、同大農林水産学研究科の院生が、泥中に沈潜していた全長15cmのチワラスボを採取し、尻びれに体長1.3mmの微小な甲殻類が付着しているのに気づきました。

既存の種に該当しない生物であったため、甲殻類を専門とする上野氏が調査を開始。

その結果、この生物は「種」だけでなく、その上位分類である「属」および「科」でさえ該当するものがないレア種であることが判明しました。

そのため、この生物は新科・新属・新種として記載、正式な学名は「コレフトリア・シラヌイ(Choreftria shiranui)」と命名されています。

属名のコレフトリアはギリシア語で「ダンサー」を意味し、種小名のシラヌイは産地である八代海(やつしろかい)の別称、不知火海に由来します。

そして、標準和名には「オシリカジリムシ科・オシリカジリムシ属・オシリカジリムシ」と命名されました。

コレは本種が、チワラスボの尻びれにくっついて共生する生態と、上野氏が個人的に好きだというNHKみんなのうたの人気キャラクター「おしりかじり虫」から来ています。

なお、和名の記載にあたっては、商標登録をしているNHK、および作詞・作曲を手がけた「うるまでるび」氏に事前相談し、許可を得ているとのことです。

新種の甲殻類を「オシリカジリムシ」と命名(鹿児島大)
(画像=チワラスボの尻びれにくっつく「オシリカジリムシ」 / Credit: 鹿児島大学 – 八代海の泥ハゼ、チワラスボの”オシリ”をカジる新種の甲殻類 (2022)、『ナゾロジー』より 引用)

その一方、本個体がメスであること以外、詳しい生態はほぼ何もわかっていません。

近縁種も見つかっていないため、どのような生活環で、いかに繁殖するかも謎です。

それでも、種の上位分類である属・科まで新たに設立されることは珍しく、甲殻類の進化史を理解する上での学術的意義はかなり大きいと言えるでしょう。

また、新種の発見が、生物学界にとって嬉しいニュースであることに変わりはありません。

「オシリカジリムシ」という命名はふざけているようにも聞こえますが、単純に趣味だけで決まったことではなく、こうした生物学上の重要発見が一般から見過ごされないようにする狙いもあるようです。

もしこの命名に釣られて、普段新種生物発見に興味を向けない人が、ついついこの記事を読んでしまっているのだとしたら、氏の目論見は見事に成功したといえるでしょう。

鹿児島沿岸は、世界的に見ても生物相の豊かな海域であり、これまでにも数多くの新種生物が報告されてきました。

今回の発見により、さらなる新種の発見が期待されています。

参考文献
八代海の泥ハゼ、チワラスボの”オシリ”をカジる新種の甲殻類
元論文
Choreftria shiranui, a new genus and species of cyclopoid copepod (Crustacea: Copepoda) associated with the worm goby from southern Japan, with the proposal of a new family

提供元・ナゾロジー

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