ローファーなど紐のない靴はスリッポンと呼ばれますが、英国の室内履きに源流があるそうです。当時英国に留学していたアメリカの学生が母国に持ち帰り、改良が加えられて現在のスリッポンになっていきます。その原点とも言うべきスリッポンが下の画像にあるBASSのウィージュンで、1936年アンメリカで発売されると気軽に履けることや、求めやすい価格から大学生に愛用されるようになりました。
Loafer=ローファーとは怠けものを指す言葉ですが、ウイージュンの特徴<芯のないつま先や柔らかい皮室など>から、締め付けがなくユルく履けるという様子を表現したものが一般的になっていきます。そしてコインローファーと呼ばれるようになった理由ですが、甲分を左右に渡るパーツ(サドルと呼ばれますが)のスリットに1セント硬貨をアクセサリーのように挟んだため、というのが広く伝わっています。
他にも公衆電話で女の子に電話するとき(当時ケイタイなんて存在しません)、途中で切れないように緊急事態に備えてコインを忍ばせておいたという説もあります。当時の学生はパンツのクリースがきれいに見えるように、ダブル仕立ての溝にコインを入れ重しのように使っていたというエピソードがあるほどですから、意中の女の子の興味を引こうとという、コインに込められた健気さに拍手を送りたいものです。
コインローファーという名称はいったん商標登録されるのですが、現在では後半で紹介するようなデザインはコインローファーと呼ばれ、一般的になっています。ローファーと言えばアメリカの代表靴のように思われがちですが、実のところ源流はイギリスにあったのですね。今では多くのブランドでローファーを取り扱っています。
ローファーと聞くと、学生のイメージが強いかも知れません。しかしある部分の違いで印象が分かれます。比較しながら話を進めましょう。
目次
サドルの扱いとステッチで、印象がここまで変わります。
検証 ニッポンのローファーに名品あり。
サドルの扱いとステッチで、印象がここまで変わります。
もっともカジュアルな印象が強いビーフロール
サドルの両端に注目してください。このモデルはアッパ―との接合部を巻き込むように縫い込んでいます。このような様子がタコ紐で巻いたローストビーフに似ていることから『ビーフロール』と呼ばれています。この巻き込みと歩調を合わせるように、モカ縫い部分のステッチも大きめでラフな印象が残っています。
履き込み、手入れをしていくと、このステッチから派生するように大き目のシワが出てきます。カジュアルなイメージを生かして、短パンに素足で合わせる、チノパンを大きめにロールアップして黒のローファーに赤いソックスを合わせたりと少年っぽいアレンジを楽しみましょう。
ハーフサドルはユーティリティパートナーだと思います。
こちらは上記画像と同じでBassの商品ですが、少しですが大人顔だと感じませんか。その印象を作っているのがサドルの扱いと、やはりそこに歩幅を合わせるようなステッチの細かさだと分かります。ビーフロールのように巻き込むのではなく、アッパーの左右に縫い込まれています。主張することなく静かに収まっているという印象です。そのバランスを保つためでしょうか、モカ縫いもステッチが目立たないように仕上げています。
ビーフロールで提案したコーディネートも十分アリですが、チノやデニムよりはピケコットンのパンツやクリースの消えないスタプレなどでキャンパス感を味わいましょう。卒業した大学のレター入りカーディガンなど見つかれば、甘酸っぱい思い出に浸れます。気分はプリンストン卒業のアイビーリーガーで。
ネクタイ姿でもローファーを履きたい。フルサドルなら大丈夫。
こちらはサドルの両端がソールにまで達していて、いっしょに縫い込まれています。上記ふたつのタイプと違うのは、そうした部分的なことだけでなく、足の形にそったグラマラスなシェイプです。そのためローファーというカテゴリィですが、大人にも似合う印象が強くなります。
パンツ次第では、つま先部分しか見えませんのでオンタイムでもビジネスシーンでも対応可能だと思います。ただしスーツにまで及ぶと『ヌケ感』作りの腕が試されますので、ジャケパンどまりにするのが肝要だと思われます。
着用シーンを妄想してみました。しばしお付き合いください。
フルサドルローファーと一緒に、学生時代を懐かしむ。
学生時代に所属していたクラブのOB会に出席することになった。エンブレムのついたダブル仕立てのネービージャケット、白のBDにクラブタイをプレーンノットで結ぶ。無難にミディアムグレーのパンツを選んだので足元には赤味の強い、ドレス感のあるローファーを選んだ。学生時代と違いフルサドルなのでOBらしい貫禄も出るだろう。
当時マネージャーを勤めれくれた後輩も出席するという。彼女とは甘酸っぱい思い出がある。足取りが軽いのはきっとローファーのせいだろう。
検証 ニッポンのローファーに名品あり。
アメリカ臭の強いローファーですが、その元となるスリッポンの源流はイギリスにあります。現在では英国はもちろんですが、フランスやスペイン、イタリアなど靴作りの名門ブランドのほとんどがローファーを扱っています。
それぞれの名品があり、それぞれに思い入れの深さもあるようです。詳しい情報や解説は他のサイトや雑誌、そして書籍に満載されています。それらのモデルをリスペクトしながら、ここでは日本ブランドのローファに照準を絞ってみました。日本人の足に相応しいのは、それを良く知る日本ブランドかも知れません。実際に試してみたい名品が盛りだくさんです。
ニッポンの足元は、リーガルが支えてきた。
こちらはREGAL TOKYO ORIGINALのコインローファーですが、フルサドルを採用したことで全体のデザインが上品に仕上がっています。素材もパターンオーダーで使用するものと同じものを使っていて、ブラックには透明感ある艶が特徴のアニリンカーフ、ダークブラウンとブラウンには履き込む事で独特の雰囲気が味わえるベジタブルタンドカーフという贅沢さです。
作りにおいても、トゥ部分を細くし、ソールは縫い目が見えないような仕上げにしたり、またコバのはり出しを削る事などで、エレガントな気遣いが随所に見られます。ここまでの完成度を備えて5万円を切るというコストパフォーマンスの高さに唸るばかりです。
キレのある2つのブランドで味わう、二ッポンメイドのイタリアンローファー
ユニオンインペリアル PREMIUM No.U1522
見る角度によってはイタリアブランドのようなエロさを醸し、違う角度ではフランスブランドのようなアートを思わせる美しさが共存する、贅沢な一足です。
シェットランドフォックス ケンジントン
甲部分を浅めにとっているので、足首のカーブが強調され艶っぽい印象があります。胸元が大きくあいたドレス、デコルテラインが美しい女性を思わせる一足です。
ニッポンテイストのフレンチトラッドは、この2ブランドに任せた。
三陽山長 弥伍郎
適度なロングトゥと細身設計はフランスブランドを彷彿とさせます。そのため履きならしには時間がかかるという点もフランス気質です。501とともにカフェに出かけましょう。
宮城興業 誂靴
このシルエットは見たことがあるという方も多いはず。パターンオーダーで作られるローファーは、JMウェストン180シグニチャーモデルへのオマージュではないかと推察されます。美しいカーブが足に沿って吸い付くようです。歩調も自然と軽くなります。