現代の地球でもっとも標高の高い山岳地域はヒマラヤ山脈で、8000メートル級のピークを持つ山が約2400kmに渡って続いています。

しかし、古代の超大陸には大陸全体にわたって約8000kmも連なるスーパーマウンテンが形成されていたと言われています。

オーストラリア国立大学(ANU)の研究チームは、地質学的な調査から地球の歴史上スーパーマウンテンが形成されたのは2回だけであり、これが生命進化上で重要だった2つの時期と関連していると報告しています。

この2つは真核生物の登場と、生物の多様性が進んだカンブリア紀と一致し、また地球の酸素濃度上昇にも関連していた可能性があるようです。

研究の詳細は、1月28日に科学雑誌『Earth and Planetary Science Letters』で公開されています。

目次
超大陸に形成された「スーパーマウンテン」
山は重要なミネラルを海に供給した

超大陸に形成された「スーパーマウンテン」

現在地球上で最大の山脈は、最高峰エベレストを含むヒマラヤ山脈で、これは2400kmにわたり続く巨大な山岳地域です。

しかし、何億年も前の古代には、ヒマラヤ山脈が3~4回繰り返されるほど長大で巨大な山脈が大陸を縦断していました。

こうした標高も連なる距離も桁違いな山は、「スーパーマウンテン(supermountains)」と呼ばれています。

ヒマラヤ山脈のような巨大な山は、大陸間プレート同士の衝突によって形成されます。

そのためスーパーマウンテンは、すべての大陸が1つにまとまってできた超大陸に形成されていたと考えられています。

オーストラリア国立大学の研究チームは、スーパーマウンテンの強い圧力で山の根に当たる部分に形成された希土類鉱物の痕跡を追うことで、大陸プレート間の衝突から生まれたスーパーマウンテンの歴史を調査しました。

その結果、スーパーマウンテンは地球の歴史上で2回しか形成されていなかったことがわかったのです。

その内、1回目は約20億~18億年前で超大陸ヌーナ(あるいはコロンビア大陸、Nuna)に形成され、2回目は約6億5000万~5億年前に超大陸ゴンドワナで形成されていました。

ヒマラヤの3倍もあった「古代スーパーマウンテン」が生命進化を促していた
(画像=超大陸ヌーナ / Credit:jlifeus.com (アメリカ生活・e-百科) ,Wikipedia、『ナゾロジー』より引用)

そして研究者たちは、この2つの時期が、生物進化における重要な2つの時期と一致しているというのです。

最初のヌーナ大陸は、後に植物や動物の元となった真核生物(細胞核を持つ生物)の出現時期であり、2つ目は最初の生物の大型化や、動物のグループがほぼ出揃った時期であるカンブリア紀(カンブリア爆発と呼ばれる時期)と一致していました。

ヒマラヤの3倍もあった「古代スーパーマウンテン」が生命進化を促していた
(画像=動物グループが出揃ったカンブリア爆発のイメージ。 / Credit:depositphotos、『ナゾロジー』より引用)

しかし、なぜ巨大な山の形成が生命の進化と関連づくことになるのでしょうか?

山は重要なミネラルを海に供給した

進化の重要な時期と、スーパーマウンテンの形成された時期に関連がある理由について、研究チームの1人ANUのヨッヘン・ブロックス(Jochen J. Brocks)教授は次のように説明します。

「山が侵食されると、リンや鉄など生物にとっての必須栄養素が海に流れ込み、生命循環の中に過供給されることで、進化をさらに複雑にする可能性があります」

私たちから見ると、山は不動の存在に見えますが、実際のところ地球の歴史のスケールで見た場合、高い山ほど非常に急速に侵食されていきます。

それは季節風であったり、大気中の氷などが原因で、大きな山はこうした自然の力の矢面に立つため、急速に削られていくのです。

ヒマラヤの3倍もあった「古代スーパーマウンテン」が生命進化を促していた
(画像=侵食で削られた地形の例。山はさまざまな自然の力で削られていく。 / Credit:jp.depositphotos、『ナゾロジー』より引用)

そして、それは大地の奥底にあった鉱物(ミネラル)を放出し、また岩石中に閉じ込められていた酸素を開放したと考えられます。

このため、研究チームはスーパーマウンテンの存在が地球の酸素濃度上昇にも関連していた可能性があると話します。

酸素濃度の上昇は、大きな生命が誕生するために重要な要因であり、そしてその時期も2つのスーパーマウンテンの形成時期と一致するようです。

真核生物誕生のきっかけや、カンブリア紀の生物の巨大化・多様化の原因については多くの議論がありますが、海に流れ込んだミネラル分の上昇や酸素濃度の上昇が関連している可能性が指摘されています。

研究チームは、この生命進化と関連する2つの時期以外に、スーパーマウンテンが形成されていた証拠はないと話します。

また1つ目のスーパーマウンテンが侵食により失われ次のスーパーマウンテンが形成されるまでの約18億年前から約8億年前の期間は、進化が鈍化していたと言われる「退屈な10億年(boring billion)」と呼ばれる時期と一致しています。

ヒマラヤの3倍もあった「古代スーパーマウンテン」が生命進化を促していた
(画像=退屈な10億年の期間を示した図 / Credit:東京大学大学院理学系研究科、『ナゾロジー』より引用)

研究者は「進化の鈍化は、その期間中にスーパーマウンテンが存在しなかったために、海洋への栄養供給が減少していたことに起因する」と話します。

これら生命進化における重要時期とスーパーマウンテン形成時期の一致を偶然で片付けることは難しいでしょう。

巨大な山の存在が、地球の複雑な生命を育んだ可能性は高いようです。


参考文献

Supermountains controlled the evolution of life on Earth

元論文

The temporal distribution of Earth’s supermountains and their potential link to the rise of atmospheric oxygen and biological evolution


提供元・ナゾロジー

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