人類は自然から学んで、飛行ロボット(もしくは飛行機)の開発に成功してきました。
しかしそのほとんどは、固定翼やプロペラを用いたものであり、「羽ばたき」を採用した飛行ロボットの例は少数です。
そんな中、イギリス・ブリストル大学(University of Bristol)工学部に所属するティム・ヘルプス氏ら研究チームは、昆虫のように羽ばたく飛行ロボットの開発に成功しました。
ミツバチの体を参考にすることで、シンプルで安定した羽ばたきシステムを作ることができたのです。
研究の詳細は、2022年2月2日付の科学誌『Science Robotics』に掲載されました。
ミツバチから生まれたシンプルな飛行システム
ほとんどの飛行ロボットには、ギアやモーターが欠かせません。
例えば、プロペラで飛行するには、まずモーターで動力を生み出し、それをギアで変換してプロペラに伝えなければいけません。
エネルギーを使って飛行するためには、部品同士をつなぎ合わせた「伝達システム」がどうしても必要なのです。
しかし、これら複雑なシステムは故障の原因にもなりやすく、搭載することでロボット自体が重くなります。
私たちが飛行ロボットに求めている「安定感」や「エネルギー効率」とは、相反するものなのです。
実際、これまでに開発されてきた小型羽ばたきロボットも、翼を上下させるためにモーターやギアを使っており、複雑で重くなっていました。
では、もっとシンプルな飛行システムはないのでしょうか?
研究チームは、ミツバチなどの昆虫がもつシンプルな構造を参考にして、モーターやギアを使わない羽ばたきシステムを開発することにしました。
羽ばたきロボットが自然界を凌駕する
研究チームは、翼を直接上下させる人工筋肉システム「LAZA:Liquid-amplified Zipping Actuator」を開発。
電場と電場の強度を強めるオイルを利用して動かすため、モーターやギアを必要としません。
羽ばたき機構を大きく簡素化できるため、小型飛行ロボットに向いています。
そして実験では、LAZAシステムを搭載した羽ばたきロボットが、100万回以上にわたって安定した羽ばたきを続けることに成功。
この結果は、羽ばたきロボットの長期飛行の可能性を示すものです。
またLAZAシステムによる羽ばたきからは、同じ重さの昆虫の筋肉よりも僅かに優れた出力が得られました。
ヘルプス氏は、「自然界よりも優れた出力を達成でき、非常に興奮している」と述べています。
今後の課題は、この羽ばたきロボットを実用化に向けて発展させることです。
小型の電子機器や制御装置を組み込むなら、植物の受粉をサポートしたり、倒壊した建物で人を発見したりする昆虫サイズの飛行ロボットになるかもしれません。
またある研究者は、LAZAシステムが、新しいタイプの「空飛ぶ乗り物」の基礎になりえる、と考えています。
将来、どこかで見たようなインパクトのある乗り物が生まれるかもしれませんね。
参考文献
Bristol scientists develop insect-sized flying robots with flapping wings
Flying robot generates as much power as a flapping insect
元論文
Liquid-amplified zipping actuators for micro-air vehicles with transmission-free flapping
提供元・ナゾロジー
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