ゲームを取り巻く長い論争の1つに、暴力的なビデオゲームは人の攻撃性を高める原因になるのか? というものがあります。
しかし、多くの研究からはこれを否定する証拠が増えてきています。そして、ついにこの議論を終わらせるべく大規模な調査研究が発表されました。
社会科学分野の科学雑誌『Cyberpsychology, Behavior, and Social Networking 』に2020年12月18日に掲載された新たな研究は、人気の暴力ゲームを長時間プレイした子どもと、そうでない子どもを比較した結果、攻撃性の有意な増加は見いだせなかったと報告しています。
10年以上に渡るこの継続調査の結果は、暴力的な傾向が暴力的なビデオゲームに起因しないことを裏付けているかもしれません。
GTAにこだわった研究
今回の研究で特徴的なのは、これが10年間にも及ぶ縦断的研究であるということと、研究で着目するゲームタイトルを『グランド・セフト・オート(GTA)』一本に絞ったというところです。
これまでも暴力的なゲームの影響について調査した研究というものは数多くあります。いずれも、プレイされたゲーム内容が明確に考慮されていないか、短期間の影響を調査したものだけです。
長期の縦断的研究を行う場合、同じ変数を繰り返し記録し続けるというのは、データとして非常に理想的です。
しかしこのような研究は、非常に長い調査期間が必要になるため、ビデオゲームの研究としては非常にまれなものでした。今回はそんな研究を、アメリカの医療関係企業が長期に渡って実施することで実現したのだと言います。
『グランド・セフト・オート』は、ギャング映画をゲームとして成立させた内容で、街中の激しい銃撃戦や薬物使用、強盗など犯罪が絡むストーリーが中心となって展開していきます。
自由度が高いことも売りの1つで、プレイヤーの行動にはほとんど制限がありません。通行人をいきなり銃殺したり、車を奪ったり、と反社会的な行動もプレイヤーの意思で自由に行うことができます。
そうした内容のため、暴力ゲームの影響が議論される際には、必ずと言っていいほど矢面に立たされるゲームです。
この研究では、平均年齢約14歳の子ども約500人が集められ、そんな『グランド・セフト・オート』のプレイ頻度などがアンケート調査されました。
10年という調査期間の開始時と終了時には、参加者それぞれの攻撃性に関する要因として「不安、抑うつ、向社会的行動(社会に利益をもたらす行動)」などが測定されました。
ここから子ども時代から成人後までのGTAのプレイ状況と、攻撃性の変化が比較されたのです。
ではその結果はどうなったのでしょうか?
暴力ゲームに対するプレイの傾向と成長後の影響
この調査では、10代の若者が暴力的なゲームをプレイする際、3つの傾向があったといいます。
グループ1は、人生の早い段階から長時間に渡ってプレイしましたが、歳を取るにつれて急激にプレイ時間は減少しました。
グループ2は、10代の期間に中程度のプレイを続け、成人するとプレイ時間がわずかに増加しました。
グループ3は、最大のグループとなり、子供の頃はほとんどプレイしていませんでしたが、歳をとるにつれてプレイ時間を増やしていきました。
子どもの頃、非常にゲームに熱中していたグループが、成長するとプレイ時間を減少させる傾向は、保護者の介入があった可能性があります。
なんにせよ、これらのグループで成人期の攻撃性について比較を行ったところ、子どもの頃にGTAに熱中した子どもたちと、子ども時代にほとんどGTAを遊ばなかった子どもたちの間には、有意な差がみつかりませんでした。
この研究で調査対象となった子どもの中には、わずか13歳でGTAを何時間もプレイしている子もいました。しかし、10年後、攻撃性に他の子どもとの有意な差は見つけられていません。
この研究結果からは、成長の初期段階に暴力的なビデオゲームをプレイすることは、後の人生における攻撃性の予測にはつながらないということが示唆されています。
ただあらゆる研究にいえることですが、得られる結果には制限があります。
今回の研究データは自己申告によるアンケート調査を基本としています。ここにはある程度の偏りが生じている可能性があり、攻撃性やゲームプレイ時間の正確な値は示せていないかもしれません。
しかし、長期に渡り非常に多くの参加者を用いた今回の調査は、これらのタイプの研究としては実行可能なもっとも信頼性のある方法の1つです。
この結果を無視して、暴力ゲームの悪影響を問題にすることは今後難しくなるでしょう。
提供元・ナゾロジー
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