1982年に公開された『ブレードランナー 』は、SF映画の歴史を塗り替えた1作としてカルト的人気を誇っている。しかし実は公開当時はヒットせず、興行的にも大コケしていた過去を持つ。
それがビデオ化され、ジワジワと知名度を広げた後、人気が爆発したのだ。しかし世界中がここまで熱狂するようになった理由はどこにあったのだろうか。
未来造形にSFファンも困惑?
公開当時にヒットしなかった要因は、SF映画のメインストリームから離れすぎた未来造形にあったようだ。
『ブレードランナー』以前のSF世界と言えば、真っ白な街並みにシミひとつない服を身にまとう未来人。それから無駄を削ぎ落とした流線型の建物などが主流だった。
ところが『ブレードランナー』を観てみると、核戦争の影響で振り続ける酸性雨に淀んだ暗黒の空、ひしめき合う退廃的なビルディングに異人種が入り混じった雑多な街並みが登場する。
本作を目の当たりにした当時のSFファンも「なんだコレ!?」と困惑しただろう。
しかし本作がその後ビデオ化され世に出回り、繰り返し鑑賞される内にマニアの間で徐々に火がつき始め、カルト的人気を誇るようになった。見るたびに何か新しい発見があるというのもカルト化の要因だろう。
つまり見れば見るほどハマってしまう中毒性の強いドラッグ映画なのだ。
原作者ディックも納得の「未来世界像」
原作は1968年に発表されたフィリップ・K・ディックの小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』は、愛読者も多いだろう。
その舞台となるのは2019年のロサンゼルスなので、実は今年は記念すべき「ブレラン」年なのだ。
ストーリーはかなりシンプル。
地球外惑星で人間の奴隷として働いていた6体のレプリカント(模造人間)が地球に脱走。彼らを見つけ出し暗殺する任務を請け負うのが警察の専任捜査官「ブレードランナー」だ。すでに引退していた元ブレードランナーのリック・デッカードが呼び戻され、レプリカント暗殺を命じられるのだが…
筋書きは小説も映画も同じだが、「レプリカント」という言葉は映画オリジナルの造語となっている。このイカしたワードセンスも人気の要因となっているのだろう。
残念ながら原作者のディックは映画の完成を待たずしてこの世を去るが、製作時の未来世界の造形を観たときに「なぜ私の頭の中がわかるんだ」と感激したようだ。ぜひ完成版も観てもらいたかったものだ。
主人公は人間?レプリカント?
さらに主人公であるリック・デッカードの謎めいた存在が、本作の中毒性を高めている。観客が一番感情移入できるはずのデッカード自体がミステリアスすぎるのだ。
「デッカード=レプリカント説」がその1つ。要するにデッカードが人間ではないかもしれないという説だ。
劇中にあらわれるデッカードの夢がその根拠となっている。彼は夢の中で「ユニコーン」の姿を見るのだが、それは彼しか知らないはずだ。しかし物語の最後、デッカードが家を去るとき、玄関先に誰かが置いたと思われる「ユニコーン」の折り紙が見える。
彼しか知らないはずの「ユニコーン」をなぜ第三者が知っているのだろうか。回答の1つとして、デッカード自身がレプリカントで、ユニコーンの夢は誰かに模造された記憶だったいうものだ。
こう考えると原作のタイトル『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』とも奇妙にリンクしてくる。ただ監督のリドリー・スコットはこれについて何も明言しておらず、その甲斐もあって観客の妄想が底なしに膨らんでいくのだ。
ちなみに本作にはバージョンがいくつかあって、その違いで「ユニコーン」のシーンが入ってないのもあるので注意が必要だ。詳しくはこちらをご参照。
「人間とは何か?」
このような「人間とレプリカントの境界がもはや曖昧である」ということもテーマ的に重厚だ。
人混みの中に紛れているレプリカントは本物の人間と見分けがつかない。さらに追いかける側のデッカードすら人間であるかどうかわからないのだ。
レプリカントは金属ではなくバイオ工学で作られているので、肉体的には生身の人間と何ら変わらない。「何をもって人間と言えるのか?」この問いかけが本作からにじみ出ているように思われる。
本作のクライマックスは、デッカードとレプリカントの親玉ロイ・バッティの対決だ。ロイは圧倒的な強さでデッカードを追い込む。ところが彼はビルから落ちそうになったデッカードの手を取り命を救う。
おそらくロイは人間としてデッカードを救うことを選んだのだろう。
『ブレードランナー 』は今なお多くの映画人に影響を与え続けている。続編となる『ブレードランナー2049』も制作されており、舞台は本作の30年後だ。「レプリカントがまさか…するなんて」というビックリ展開も用意されている。
ぜひ合わせてチェックしてほしい。そして『ブレードランナー2079』も密かに期待しておこう。
reference: cinephiliabeyond / written by くらのすけ
提供元・ナゾロジー
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