フリーランスなのに開業届を出していないと、どのような問題があるのでしょうか。そもそも開業届を出すことは義務なのか、あるいは持続化給付金をもらえるのかなど、フリーランスになりたての方は気になると思います。

本記事では、フリーランスの人が開業届を出していないとどんな制限があるのか、そもそも開業届とは何なのかについて解説します。

目次

  1. 開業届を出さなくてもフリーランスとして働ける?
  2. 開業届を出すことのメリット
  3. 開業届を出すべき基準
  4. 開業届は自分自身のキャリア設計を基準に出して

開業届を出さなくてもフリーランスとして働ける?

そもそもフリーランスにとって、開業届とは何なのでしょうか。提出義務の有無も含め、開業届の概要について解説します。

開業届とは

開業届とは、「個人事業主になることを税務署に知らせる宣言書類」です。

開業して1ヶ月以内に提出することが義務付けられていますが、罰則はありません。したがって、提出しないままフリーランスとして仕事を続けていてもとくに不都合が発生することはありません。(※税制上の不都合が生じる可能性はあります。詳細は後述)

開業届は納税義務が発生する書類ではない

開業届は税務署に対して提出する書類なので、「開業届を出すことで納税義務が発生する」と勘違いしている人も多いようです。しかしそもそも納税は憲法で義務付けられており、開業届提出の有無に関わらず必要です。

ちなみに、フリーランスの多くが毎年頭を抱える確定申告(所得税を精算するための申告)は、年間で一定以上の収入があった者は原則提出しなければなりません。

会社員の方はピンとこないかもしれませんが、会社では年末調整をすることで個人の確定申告の手間を省いているだけです。開業届を出しても出さなくても、確定申告は必要ということも念頭に置いておきましょう。

フリーランスと個人事業主の違い

ところで、開業届は「個人事業主になることの宣言書類」であって、フリーランスになることの宣言書類ではありません。ここで、個人事業主のフリーランスの違いについてもおさらいしておきましょう。

個人事業主は税法上の区分で、「継続して事業を行う個人」を指します。一方フリーランスは、「特定の法人や団体に属さない働き方」の定義です。

したがって、フリーランスには個人事業主も含まれます。たとえ継続して事業を行わない人であっても、団体に属していなければフリーランスです。

整理すると、「フリーランス」とはあくまでも働き方を指しており、開業届を出すことではじめて「個人事業主」となれるのです。

開業届を出すことのメリット

開業届を出さなければ享受できないメリットはあるのでしょうか。開業届を出した個人事業主のみができることと、そこから得られる価値について解説します。

メリット1. 青色申告ができる

開業届を出すことの最大のメリットは、青色申告ができることです。青色申告とは、所得税を正しく納税するために行う確定申告制度の一種。青色申告を行うと、所得から最大65万円の控除を受けたり、さまざまな特典を受けたりすることができます。

一方で、青色申告は複式簿記による記帳が義務づけられるため、初めての人は手間取るかもしれません。また、青色申告をする前には手続きが必要です。この手間を面倒がって青色申告を選択しない人をよく見かけますが、青色申告が他と比べて圧倒的に面倒かというと、そうでもありません。

まず先に述べたように、一定以上の収入があるフリーランスは必ず確定申告をしなければなりません。ここで青色申告か白色申告かの選択が迫られるわけですが、2014年からは白色申告であっても記帳や帳簿保存が義務づけられたため、青色申告と比べた手間の差は微々たるものです。

また、近年は確定申告用のクラウドサービスが増えたので、所定の欄に入力していけば申告書類を自動作成できる環境も整っています。専門的な知識がなくとも操作できるツールが豊富なので、青色申告の実際の手間はそこまで大きいわけでもありません。

青色申告と聞くとつい身構えてしまう気持ちも理解できますが、控除を魅力に感じるならば、ぜひ青色申告に挑戦してみてください。

メリット2. 赤字の繰越

開業届を出して青色申告していると、控除に加えて赤字の繰越ができます。個人事業主が赤字になった場合、所得はマイナスになるので確定申告の義務はありませんが、損失申告することでいくつかの特典を受けることができます。

まず、事業損失を他所得と相殺できます。例えば給与所得などの黒字があったとしても、事業損失の赤字と相殺すれば、結果的に所得が減るので節税することができます。また、それでもなお赤字が残る場合は、翌年に赤字を繰り越し、翌年の黒字から繰越損失を差し引くことが可能です。さらに、本年度の赤字を前年度に繰り戻し、支払い済みの税金の還付を受けられる仕組みもあります。

赤字が出たときに柔軟な選択肢があること、それによって節税できることは大きなメリットと言えるでしょう。

メリット3. 家族への給与支払いを経費処理

最後に、家族とともに事業を営む場合、その家族に対する給与支払いが経費になることもメリットと言えます。

本来のルールでは、個人事業主が家族を従業員として扱う場合、その給与は経費対象から除外されます。個人事業主と生計を一とする家族に、収入が付け替えられたように捉えられてしまうためです。

これを経費として処理するための制度が「青色事業専従者給与」です。店舗事業などを家族で経営する場合、その給与は少額ではありません。これを経費処理することができれば、高い節税効果を期待することができます。

開業届を出すべき基準

開業届を出すことのメリットをいくつか挙げましたが、それらのメリットが自分にとって果たして必要なのかどうか、判断に悩む人も多いと思います。いくつかの観点から、フリーランスが開業届を出す判断基準について解説します。

基準1. フリーランスとしての利益の安定度

まず、先ほどの説明にあったように、赤字繰越ができるのは個人事業主で、かつ青色申告をしている人のみです。したがって、フリーランスとして赤字になる可能性がある場合は、開業届を出して青色申告をしたほうが良いと言えます。収入が安定していない、小規模な事業こそ、開業届を出すとリスクを軽減することができます。

基準2. フリーランスとしての社会的信頼を高めたいか

開業届を出すと「屋号」を掲げられ、独立した事業を担う者としての姿勢を示せます。これは企業へのアピールポイントになるでしょう。というのも、副業やパラレルワークといった働き方が普及し、フリーランスの多様性が広がりつつある昨今、発注する企業側がフリーランスを選ぶ基準は複雑化しています。

開業届を出してもスキルの証明はできませんが、少なくとも本人が生計を立てる意志をもって開業していることは示せるため、ある種の信頼にはつながるはずです。

基準3. 今後事業を成長させたいか

フリーランスとは特定の法人や団体に属さない「働き方」を指していますが、そこから事業を成長させたいのか否かは人によって異なると思います。

例えば、「片手間でお小遣い程度の金額を稼ぎたい」と考えている人であっても、特定の法人や団体に属さなければ、「フリーランス」を名乗ることは可能です。一方、開業届を出す個人事業主は「継続して事業を行う個人」なので、お小遣い稼ぎが主目的ではありません。

つまり、開業届を出すということは、その道のプロフェッショナルとして事業を成長させたいという意思表示でもあるわけです。今後事業を成長させていきたい、独立性をもって利益を上げていきたいという目標がある方は、開業届を出したほうが良いでしょう。

開業届は自分自身のキャリア設計を基準に出して

今回は開業届を出していないフリーランスを対象に、どんな基準で開業届を出したほうがいいか解説しました。

昨今は持続化給付金などの制度が増えたことで、給付金をもらうために開業届を出すべきか悩んでいる方も多いようですが(※開業届は給付金受給の必須要件ではありません)、それは本来の開業届の趣旨とずれています。また、青色申告が面倒だから開業届を出さない、という選択もおすすめしません。

あくまでご自身のキャリア設計や収入状況をもとに、個人事業主であることを宣言したほうが有利であるかどうかを判断してください。

(執筆:宿木雪樹 編集:少年B)

提供元・Workship MAGAZINE

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