4. おわりに
シナリオプランニングの根幹の主張は、未来を正確に予測することなどできない、というものだ。だからシナリオ作品には、必ず複数のシナリオを用意して思った通りにいかない場合のリスクを明らかにしようとする。
気候変動問題の未来には、あるべき規範的シナリオが達成されない場合がありうるし、そのような望ましくない未来の出現もありうる、これが今現在のフェアな見方だろうと筆者は考える。COP国際会議での“決意表明”とは、目の前に開けた複数の未来可能性の中から、特定の未来を、ひとつ選択したということだ。
だが、この無碍に反論できない決意表明は、研究者、行政官、経営者、それぞれのプロフェッショナリズムと行動に、深甚な影響を及ぼすのだ。企業は大規模投資の検討に当たって「2030年の温室効果ガスは、2013年度比46%削減(菅前首相)」を採用すべきなのか。
改めて、未来に向かう道程には人間の意志と感情と行為が介在する。ここには本来的な不確実性が避けられない。
そこで企業側としては、「あるべき規範的シナリオ」のみを、長期ビジネス環境の前提とするのか? あるいは、「達成されないシナリオ」のロジックをも顧みておくのか? 果敢な経営者は、両方の可能性を“自分事”として熟考し、決断し、ビジネスリスクを引き受ける。
この未来の不確実性に、直接、自分で、触らなければ、課題は“他人事”のままで留まる。
注1)The Intergovernmental Panel on Climate Change
注2)IPCC AR6 Synthesis Report
注3)トレイディング用語。「確率は低いが、発生すると非常に巨大な損失をもたらすリスク」のこと。
注4)TCFDコンソーシアムのHPを参照。
注5)TCFD “Guidance on Scenario Analysis for Non-Financial Companies” October 2020
文・角和 昌浩/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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