金属探知機は今や、考古学分野の重要な道具となっています。

特にここ数年はアマチュアの活躍がめざましく、彼らは金属探知機を使って、古代のコインや金属器、武具などを掘り当てています。

そしてこのほど、イギリス南部ウィルトシャーで、マチュア探知家による新たなお宝の発見がなされました。

見つかったのは約800年前の「黄金のブローチ」で、内側に病魔よけの呪文が刻まれていたとのことです。

リングの内側に「病魔よけの呪文」を発見

アマチュア探知家のウィリアム・ノードホフ(William Nordhoff)氏は、2021年3月、ウィルトシャーにある村ピュージー・ヴェイルの畑で金属探知をしていたところ、あるポイントで反応があったという。

最初は取るに足りない鉛のかけらだと思いましたが、掘り起こしてみると「金色に輝く光が私を見つめていた」と話します。

その金色の物体はかなり小さく、直径が2.4cm、重さは5.77gしかありませんでした。

中央に棒状のピン留めのようなものがあり、リングには外縁と内縁の両方に文字が刻まれていました。

「あまりのショックに腰を抜かしてしまいました」とノードホフ氏は言います。

「しばらくの間、その場に座り込んで呆然と見つめていたような気がします。

同じ型のブローチは見たことがありますが、これほど多くの文字が記されたものは経験がなく、すぐに特別なものと分かりました」

”病魔よけの呪文”が刻まれた800年前の「黄金のブローチ」を発見!
(画像=発見された「黄金のブローチ」 / Credit: William Nordhoff – Thrilled Detectorist Finds 800-Year-Old Brooch with Magical Words to Ward off Illness(2022)、『ナゾロジー』より引用)

氏はただちに地元当局に報告。ブローチは専門家のもとに引き取られ、分析にかけられました。

その結果、ブローチの製造年代は1150年から1350年の間と判明し、内容物の分析から、本物の金で作られていることが確認されています。

また専門家らは、このブローチが”宗教的な意味合いを持った遺物”であることを突き止めました。

リングの外縁に刻まれた文字を調べたところ、ラテン語によるキリスト教の祈りの言葉であることが特定されています。

次のようなメッセージです。

「恵みに満ちたマリアよ、主は汝と共におられる。汝は女のうちで祝福され、胎内の御子イエスも祝福される。アーメン」

これは、ルカによる福音書に見られるアヴェ・マリアの祈祷文の一節です。

さらに、リングの内縁の文字は、ラテン語でなくヘブライ語と判明しました。

報告によると、これらは魔力を持つ文字と見なされており、ブローチの使用者を病魔から守る魔除けの一種となっていた、と説明されています。

1350年頃は、イングランドを含むヨーロッパ世界を悪名高いペスト(黒死病)が襲った時期であり、それに合わせてブローチが作られたと推測されています。

一方で、それ以前に作られた可能性も高く、ペスト避けとは別の目的があったのかもしれません。

専門家は「ブローチは非常に小さいため、文字を刻んだ人は、金属表面の細かな加工に熟練した人物であったろう」と付け加えています。

ノードホフ氏(49)はイギリス陸軍に10年間所属し、ウィルトシャーに駐在したのち、現在は軍事関係の企業に務めています。

そのかたわら、2017年から金属探知を始め、以来、いくつかの遺物を発見してきたという。

しかし今回のブローチは、氏にとって最大かつ歴史的な発見となりました。

ブローチは近々、地元のウィルトシャー博物館に展示され、一般公開される予定です。


参考文献

Thrilled Detectorist Finds 800-Year-Old Brooch with Magical Words to Ward off Illness


提供元・ナゾロジー

【関連記事】
ウミウシに「セルフ斬首と胴体再生」の新行動を発見 生首から心臓まで再生できる(日本)
人間に必要な「1日の水分量」は、他の霊長類の半分だと判明! 森からの脱出に成功した要因か
深海の微生物は「自然に起こる水分解」からエネルギーを得ていた?! エイリアン発見につながる研究結果
「生体工学網膜」が失明治療に革命を起こす?
人工培養脳を「乳児の脳」まで生育することに成功