一部の海域では、サメの存在がサーファーたちを苦しめています。
実際、オーストラリア・ニューサウスウェールズ州の北海岸では、サーファーがサメに襲われて死亡した例がいくつもあります。
この問題を解決すべく、オーストラリアの企業「シャークストップ」は最近、鋼の15倍の強度をもつ素材を利用したウェットスーツを発表しました。
新素材の研究は、数年前からオーストラリア・フリンダース大学(Flinders University)に所属するサメ研究者チャーリー・フーヴァニアーズ氏ら研究チームによって行われてきました。
研究の詳細は、2019年11月18日付の科学誌『PLOS ONE』に掲載されています。
目次
ホオジロザメに負けない新素材を開発
シャークストップ・ウェットスーツは深刻な咬傷を防ぐ
ホオジロザメに負けない新素材を開発
ホオジロザメは人を襲う場合があるサメであり、映画「ジョーズ」のモデルになるほど、恐怖のイメージが定着しています。
もちろん、ホオジロザメによる実際の被害も起きています。
特にオーストラリアでは、ホオジロザメに襲われて手足を失ったり死亡したりする事件が頻発しているようです。
そしてそれらの主な死因は、咬傷による「失血死」でした。
では、サーファーたちをこの問題や不安から解放する方法はあるのでしょうか?
シャークストップ社の創設者であるヘイドン・バーフォード氏は、「サメの強力なアゴと鋭い歯に負けない頑丈なウェットスーツがあればよい」と考えました。
そこで、フリンダース大学のサメ研究者であるチャーリー・フーヴァニアーズ氏らと共に、4年間、ホオジロザメの咬傷を軽減する新素材を研究してきました。
その結果、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)ナノファイバーをネオプレン(クロロプレンゴム)に組み込んだウェットスーツ素材の開発に成功。
ネオプレンは従来のウェットスーツに使用されている素材で、耐寒性・伸縮性・撥水性に優れています。
そこに鋼の8~15倍の比強度をもつ超高分子量ポリエチレン(通常2~30万の分子量を100~700万まで高めたポリエチレン)を組み込んだのです。
シャークストップ・ウェットスーツは深刻な咬傷を防ぐ
開発された新素材をもとに作られたウェットスーツは、軽量で柔軟性がありながら、摩耗や切り傷、衝撃に強く、ホオジロザメによる咬傷を軽減できます。
実際に行われたテストでは、ホオジロザメが新素材に噛みつきましたが、切り裂くことはできず、あきらめるしかありませんでした。
またシャークストップ・ウェットスーツは従来のウェットスーツと比べても「噛みつきに強い」ことが実証されています。
シャークストップ・ウェットスーツを貫通させるには、従来品を貫通させる力の数倍が必要であり、テストではホオジロザメによる傷の深さを50%以下に抑えることができました。
さらにシャークストップ・ウェットスーツでは、サメに噛まれて失血死に至りやすい大腿動脈周辺が特に強化されています。
この新しいウェットスーツを着用するなら、ホオジロザメに襲われて死亡する割合が大きく減少するでしょう。
現在、シャークストップ社はクラウドファンディングサービスKickstarterにて支援を募集中。
US$570(約6万5000円)の支援でウェットスーツを1着入手できます。
サメを心配せずにサーフィンを楽しみたい方は、ぜひチェックしてみてください。
参考文献
Shark Stop wetsuit designed to thwart great whites
Shark Stop Wetsuits
元論文
Effectiveness of novel fabrics to resist punctures and lacerations from white shark (Carcharodon carcharias): Implications to reduce injuries from shark bites
提供元・ナゾロジー
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