2008年、NASAの火星探査機マーズ・リコネッサンス・オービター(MRO)は、火星の広い範囲に点々と残る塩化ナトリウム(食卓塩)の堆積物を発見しました。

米カリフォルニア工科大学(Caltech)のエレン・リースク(Ellen Leask)氏は、この大規模な塩の堆積物を分析。

その結果、火星における液体の水は、これまで考えられていたよりも10億年近く長く存在していたことが明らかになったのです。

研究の詳細は、2021年12月27日付けで、科学雑誌『AGU Advances』に掲載されています。

火星塩⁉︎ 火星で見つかった「塩の堆積物」とは

塩の分析から、火星には予想より約10億年も長く水が存在していたと判明
(画像=マーズ・リコネッサンス・オービター / Credit:JPL/NASA、『ナゾロジー』より 引用)

火星の水は約30億年前にすべて失われてしまったと考えられています。

しかし、実際はもっと最近まで火星の水は残っていた可能性が発見されました。 NASAの火星探査機MROは、火星の南部の広い地域に点々と残された塩化ナトリウムの堆積物を発見したのです。 塩は非常に溶けやすいため、水分のある場所では基本的に固体にはなりません。 そのため、塩が沈殿した堆積物は、液体の水が火星表面に存在していた最後の年代を特定するヒントになります。 そこで、本研究の主執筆者であるカリフォルニア工科大学の博士課程学生、エレン・リースク氏(現在は米ジョンズ・ホプキンス大学応用物理学研究所研究員)は、この塩の堆積物がどのように形成され、どのくらいの年代のものであるかを分析したのです。 まず、塩の形成がどのように起こったかを考えてみましょう。 発見された塩の堆積物は、谷のような窪地や、クレーターなどに斑点のように残っていました。

塩の分析から、火星には予想より約10億年も長く水が存在していたと判明
(画像=NASAのマーズ・リコネッサンス・オービターが撮影した火星の画像。白い斑点のように映るものが塩の堆積物。 / Credit:NASA/JPL-Caltech/MSSS、『ナゾロジー』より 引用)

そして、これらの塩の堆積物は驚くほど薄く、せいぜいが厚さ3メートル以下だったのです。

これは火星が広く水に満たされていた時代の痕跡とは言えません。

共著者であるカリフォルニア工科大学の地球科学教授、ベサニー・エールマン(Bethany Ehlmann)氏は、これについて次のように言及します。

「これは地球上において、南極の永久凍土の上に季節的に雪が溶けてできる湖の連なりと類似しています。

雪は凍土深くに浸透できないため、蒸発すると残された塩は薄い堆積物を残すことになります」

これらを考慮すると、火星の塩の堆積物は、高い位置にあった粘土に溶けていた塩が、降り積もった雪や氷に溶け出し、その氷が溶けて低い場所に流れ込んだ後、最終的に蒸発して形成されたと考えられるのです。

では、それが形成された年代はいつになるのでしょうか?

研究者たちは、塩の堆積物が23億年前に形成された火山地形の上にも存在していることを発見しました。

ここから、火星には少なくとも23億年前よりかなり後の時代まで液体の水が残っていた可能性が考えられます。

かつての火星には海があり、豊かな水に覆われた惑星であったことがわかっています。

しかし、それは約30億年前に完全に失われてしまったと予想されていました。

塩の分析から、火星には予想より約10億年も長く水が存在していたと判明
(画像=『ナゾロジー』より 引用)

40億年前の火星のアーティストイメージ。この時代の火星は水に覆われていた。 / Credit:ESO/M. Kornmesser

今回の発見は、約30億年前に失われたと考えられていた火星の液体の水が、少なくとも私たちが考えているより10億年近く長く存在していた可能性を示唆しているのです

将来的には、この塩の堆積物を直接分析して、それが本当に予想通りの蒸発によって形成されたものであるのか確認することができるでしょう。

そして、そのときには塩がかつて水のあった時代にどのような有機化合物と関連していたかも明らかにできるかもしれません。

それにより、生命の痕跡にも近づける可能性が期待されています。

提供元・ナゾロジー

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