古代エジプトのファラオ、セケンエンラー(BC1558〜1553年頃)の最期の瞬間が明らかになりました。

カイロ大学は17日、セケンエンラーのミイラから、複数の致命傷を発見したと発表。

彼は、当時エジプトを支配していた異民族のヒクソスと戦ったファラオであることから、自らも戦場に出陣し、凄絶な死を迎えたと思われます。

研究は、2月17日付けで『Frontiers in Medicine』に掲載されました。

目次

  1. 勇敢なファラオが迎えた最期とは?

勇敢なファラオが迎えた最期とは?

セケンエンラーは、エジプト第17王朝(BC1580〜1550年頃)のファラオです。

当時のエジプトは、中東のレヴァントから侵入してきたヒクソス人に征服され、彼らが建てた第15王朝に服従していました。

ヒクソスの第15王朝は北エジプト全域を支配し、第17王朝を南部に追いやって、事あるごとに貢ぎ物をさせています。

3500年前のファラオの壮絶な死因が明らかに 戦闘で「八つ裂き」にされた勇敢な王
(画像=ヒクソスの第15王朝(黄色) / Credit: ja.wikipedia、『ナゾロジー』より引用)

残された記録によると、当時のヒクソス王から次のような苦情がありました。

「テーベ神殿で飼われているカバの鳴き声がうるさくて眠れないので殺すように」

テーベ神殿とは、17王朝が居をかまえた南部にあり、北部のヒクソス王に聞こえるわけありません。

要するに、完全な嫌がらせだったのです。

これが17王朝の不満を爆発させ、セケンエンラーをして反乱を起こすきっかけになったのでしょう。

17王朝は北の15王朝へと進軍し、両軍の戦闘が勃発します。

この戦いの記録としては、セケンエンラーの息子(あるいは兄弟)で、後継者のカーモスがヒクソスとの戦いで死亡したことが残っていますが、セケンエンラーの死の真相は分かりません。

幸運にも、1886年にセケンエンラーのミイラが発見されましたが、当時は高度な調査技術もなく、そのまま放置されることになります。

3500年前のファラオの壮絶な死因が明らかに 戦闘で「八つ裂き」にされた勇敢な王
(画像=ミイラを調査している研究チーム / Credit: EPA、『ナゾロジー』より引用)

そこで今回、研究チームは、コンピューター断層撮影 (CT)により、セケンエンラーのミイラを詳しく調査しました。

ミイラは損傷が激しく、身体の骨はバラバラで、頭部は胴体から分離しています。

その中で、額、目、頬の周りに深い切り傷と、頭蓋底に脳幹に達したと見られる刺し傷が発見されたのです。

額の傷は長さ7センチで斧か剣によるもの、右目上の傷は長さ3.2センチで斧によるもの、鼻や右頬にも刃物による切り傷が見られました。

これだけでも十分に致命的ですが、極めつけは長さ3.5センチの頭蓋骨の傷でした。

明らかに武器が貫通した傷であり、おそらく槍で頭上から刺されたと推測されます。

3500年前のファラオの壮絶な死因が明らかに 戦闘で「八つ裂き」にされた勇敢な王
(画像=顔中に致命傷が / Credit: EPA、『ナゾロジー』より引用)

一方で、腕には外傷が一切見当たらず、後ろ手で拘束されていた可能性があります。

このことから、研究主任のサハル・サリーム氏は「セケンエンラー自ら戦闘に参加したものの、捕らわれの身となって、最期は四方八方から八つ裂きにされたのではないか」と指摘します。

これまで傷を負ったファラオのミイラはあっても、戦死したことを示唆するものはなく、セケンエンラーはかなり好戦的で勇敢な王だったのかもしれません。

3500年前のファラオの壮絶な死因が明らかに 戦闘で「八つ裂き」にされた勇敢な王
(画像=セケンエンラーの頭蓋骨 / Credit: EPA、『ナゾロジー』より引用)

彼とカーモスの死後、17王朝はセケンエンラーの妻であったイアフヘテプ1世をトップに立て、ヒクソスとの戦闘を続行します。

そして、2人の子であるイアフメス1世が成人して王位につくと、ヒクソスとの戦いに勝利して、エジプトを統一。

これをもってエジプトは、第2中間期と呼ばれる時代を終え、新王国時代へと入っていきました。

公開日:2021.02.19 FRIDAY

参考文献:

Egyptian pharaoh was executed on the battlefield, mummy reveals

CT scans of Egyptian mummy reveal new details about the death of a pivotal pharaoh

元論文:

Computed Tomography Study of the Mummy of King Seqenenre Taa II: New Insights Into His Violent Death

提供元・ナゾロジー

【関連記事】
ウミウシに「セルフ斬首と胴体再生」の新行動を発見 生首から心臓まで再生できる(日本)
人間に必要な「1日の水分量」は、他の霊長類の半分だと判明! 森からの脱出に成功した要因か
深海の微生物は「自然に起こる水分解」からエネルギーを得ていた?! エイリアン発見につながる研究結果
「生体工学網膜」が失明治療に革命を起こす?
人工培養脳を「乳児の脳」まで生育することに成功