最近、映画や漫画のスーパーヒーローが装着していそうなゴーグルが発表されました。
実はこのデバイス、視覚障がい者が周囲を把握するためのナビゲート用ゴーグルなのです。
ドイツ・ミュンヘン工科大学(TUM)に所属するマヌエル・ザーン氏ら研究チームが、深度カメラ(3Dカメラ)を利用して周囲の状況を振動で伝えるデバイスを開発しました。
周囲のどこに障害物があるか感知できるため、全盲の人でも複雑な通路をスムーズに通行できます。
研究の詳細は、1月12日付でプレプリントサーバ『arXiv.org』に掲載されました。
赤外線照射を利用した視覚障がい者用ゴーグル
視覚障がい者にとって、一人で歩行するのは簡単なことではありません。
白杖は周囲に障害物がないか確認しながら歩くのに役立ちますが、それでも自分から半径1mくらいしか判断できません。
では、健常者が見ているように周囲全体を知覚し、一人で障害物を避けていくことは可能でしょうか?
この課題に取り組んだのが、マヌエル・ザーン氏ら研究チームです。
彼らは深度カメラ(3Dカメラ)を利用して、障害物の位置を把握できる視覚障がい者用ゴーグルを開発しました。
深度カメラとは、赤外線などを利用して、奥行き(深度)の情報を取得するカメラです。
いくつかのタイプでは赤外線照射を利用しているため、「暗闇でも」周囲の状況や奥行きをはっきりと把握できます。
研究チームは、この深度カメラと小型コンピュータを新型ゴーグルに内蔵することで、「いわば絶えず暗闇の中にいる視覚障がい者でも」周囲の状況と奥行きを把握できるようにしました。
しかし、目の見えない人のその情報はどうやって伝えれば良いのでしょうか。
研究者たちは、この問題を解決するため振動を伝える機械である「バイブレータ」を使用しました。
赤外線と腕の振動で奥行きを把握できる
開発された視覚障がい者用の新型ゴーグルは、次の仕組みで作られています。
最初に深度カメラが、装着者視点の画像を撮影。
次に内蔵された小型コンピュータが、その画像を25個(5×5の配列)に区分けします。
奥行き情報に基づいて、それぞれの区画ごとに「障害物レベル」を判定。
その後、この情報は腕に装着したアームバンドに送られます。
そしてアームバンドにも画像の区画に対応した25のバイブレータが付いており、障害物レベルに応じた振動が加わるようになっています。
例えば、廊下を歩く装着者は、アームバンドの両端の列が強く振動していることから、これらが廊下の側壁だと分かります。
また中心に向かって振動が弱くなっているため、「この方向には障害物がなく、通路が続いている」と判断できるのです。
装着者は、主観映像をアームバンドの振動で絶えず知覚できるため、目が見えなくても奥行きを感じながら障害物を避けて歩けます。
実際に行われたテストでは、障害物ありの複雑な通路を98%の精度で移動することができました。
5人の参加者全員が1回目でコースをクリアでき、しかも何度か繰り返すことで、さらに早くゴールできたとのこと。
この新型ゴーグルのメリットは、デバイス自体がコンパクトである点と、他の感覚を阻害しない点にあります。
ゴーグルとアームバンドだけなので、歩行や聴覚情報を妨げることがないのです。
視覚障がい者の活動範囲を大きく広げる可能性があるため、「使ってみたい」と感じる方も多いのではないでしょうか。
商品として完成するときを期待して待ちたいですね。
参考文献
NEW DEVICE LETS PEOPLE WHO ARE BLIND “SEE” IN INFRARED
Research at the Center for Digital Technology and Management 2018
元論文
Obstacle avoidance for blind people using a 3D camera and a haptic feedback sleeve
提供元・ナゾロジー
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