割れない「泡」が開発されました。
フランスのリール大学で行われた研究によれば、最長で465日も持続する究極の「泡」を作成した、とのこと。
通常、私たちが目にするシャボン玉は数十秒から長くても数分で消えてしまいますが、新たに開発された材料は「泡」の割れる原因となる物理現象を封じるように設計されており、最終的に1年を超える期間、形状を保つことに成功しました。
いったいどんな方法を使えば、1年以上割れない泡を作ることができるのでしょうか?
研究内容の詳細は2022年1月18日に『Physical Review Fluids』に掲載されました。
目次
割れないシャボン玉は重力と蒸散の影響を克服していた
465日間割れなかったシャボン玉の物語
割れないシャボン玉は重力と蒸散の影響を克服していた
シャボン玉はその美しさと儚さで多くの人々を虜にしています。
瞬間的な泡を作るだけならば純水でも可能ですが、水は表面張力(1つに固まろうとする力)が強く、純粋な水の泡は瞬間的にしか維持できません。
そこで通常は、石鹸や洗剤に含まれるヌルヌル成分(界面活性剤)など追加の材料を混ぜます。
ヌルヌル成分(界面活性剤)には水によくなじむ部分(親水基)と水を嫌う部分(疎水基)があり、水に溶けると水の表面張力を適度に調節して液体の「伸び」を良くします。
そして十分な濃度がある場合、界面活性剤の分子の並びが物理的な安定(親水どうし疎水どうし)をもたらすため、ただの水の泡よりも長い間、持続して存在することも可能になります。
つまり、シャボン玉では水の表面張力をベースにしつつ、追加の成分が水の伸びや安定性を提供することでひと時の球状が維持されていたのです。
一方、シャボン玉が割れる最大の原因は重力、次いで水の蒸発があげられます。
シャボン玉が形成されてから時間が経過すると、重力によって液体が球体の下側に集まり始め、上側はどんどん薄くなっていき、最終的に穴があいてしまいます。
またシャボン玉を構成する水分が空気中に蒸発することも、層を薄くして穴があく原因となります。
そのため持続的な「泡」を維持するには、第1に重力に打ち勝つこと、そして第2に表面張力を提供する水を蒸発させないことが重要になってきます。
しかし、どちらも地球上で実現するのは困難と言えるでしょう。
研究者たちはどのような材料を用いて、重力と蒸散に打ち勝ったのでしょうか?
465日間割れなかったシャボン玉の物語
いかにして割れる原因となる水の落下と蒸発を防ぐのか?
リール大学の研究者たちはその答えを、水とプラスチックの微粒子混ぜた「ガスマーブル」と呼ばれる特殊な泡に、グリセロールを加えることで実現しました。
グリセロールを加えることで水の蒸発が防がれるだけでなく、グリセロールは空気中から水分を吸収することが可能なため、泡本体への持続的な水分補給が実現しました。
またプラスチックの微粒子は界面活性剤の代りとして安定性を提供すると共に水分子に対する吸着能力を生かして、全周囲での液体層の厚さを維持します。
研究者たちはこの3つの材料(水・グリセロール・プラスチックの微粒子)を適度な比率で混ぜ合わせることで、最終的に泡(ガスマーブル)の寿命を465日間まで延長させることに成功しました。
もっとも界面活性剤の代りに固体状のプラスチックの微粒子がちりばめられたことで、泡(ガスマーブル)は手で持ったり転がすことができるほど強固なものになっています。
また通常のシャボン玉が弾けるようにして消滅する一方で、グリセリンとプラスチック粒子を混ぜた泡は、砂の城が崩れるようにして崩壊します。
しかし、水をベースにした泡の一種である事実は変っていません。
液体を使って頑丈な球体を作るだけならばガラスを使えばすむ話ですが、あえて蒸発する水をベースにした泡づくりに挑戦したことに意味がある……のかもしれません。
なお今回の研究では追加の試みとして上の図のように、金属のフレームの間に同じ材料からなる「泡の膜」を378日間維持することにも成功しています。
これらの研究結果が人類の発展にただちに影響を与えることはないかもしれませんが、最長寿命の水の泡を作り出そうとする研究者たちの全力の取り組みは、泡を愛する人々の記憶に「465日間割れなかったシャボン玉の物語」として長くとどまることになるでしょう。
参考文献
An ‘everlasting’ bubble endured more than a year without popping
元論文
Everlasting bubbles and liquid films resisting drainage, evaporation, and nuclei-induced bursting
提供元・ナゾロジー
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