今月10日、オーストラリア南西のブレマー湾(Bremer Bay)にて、ロープに絡まって弱っていたザトウクジラをシャチの群れが助ける瞬間が目撃されました。
普通、両者は食い・食われるの関係として知られ、シャチは群れでクジラを狩って捕食します。
しかし今回見られたのは、シャチがロープをほどいてクジラを助けるという真逆の行為。
意図的に助けたとは言えないものの、これは初めての観察例とのことです。
シャチがクジラに絡んだロープを解いた?
目撃したのは、ホエール・ウォッチ・ウェスタン・オーストラリア(Whale Watch Western Australia)の調査隊です。
1月10日の朝、西オーストラリア州のブレマー湾を船で航行していた際に、その現場に遭遇したといいます。
ロープに絡まっていたのは、全長7mほどのザトウクジラでした。
オーストラリアのある南半球は現在、夏の真っ最中で、本来ならザトウクジラはそこにいないはずだという。
ザトウクジラは通常、繁殖のために亜熱帯海域へと北上する6〜8月と、南極へ南下する9〜11月の間にオーストラリア沿岸で見られます。
1月は南極でオキアミを捕食しているシーズンであるため、このタイミングにブレマー湾で目撃されたことがそもそも驚きでした。
その理由は不明ですが、調査隊はすぐにこのクジラが弱っていることに気づきました。
尾には漁業用ロープが絡まり、体表面は魚類やクジラに寄生するシラミに覆われて、傷だらけだったという。
また、満足にエサが食べられていないのか、かなり痩せていたようです。
しばらく観察していると、船の背後にオスのシャチが2頭あらわれました。
群れで狩りをするシャチは、クジラのヒレをつかんでひっくり返し、押さえ込んで仕留める狩りを得意とします。
万事休す。
あわれこのクジラも凄絶な最期をむかえるのかと思いきや、調査隊は思いもよらぬ光景を目にしました。
なんとシャチはクジラに接近すると、尾ビレの下に潜り込んで、絡んだロープに触れるような行動を見せたのです。
さらにその後、群れのリーダーであるメスのシャチがやって来て、ザトウクジラに対し波を立て始めました。
するとクジラの尾ビレからロープがするっと抜けたのです。
しかも驚くことに、シャチたちはロープの取れたクジラに手を出さず、静かにその場をあとにしました。
当のクジラはしばらくの間、船の近くを周遊し、姿を消したといいます。
シャチは意図的にクジラを助けたのか
慈善団体・クジラとイルカの保護協会(WDC)の海洋生物学者であるエーリッヒ・ホイト(Erich Hoyt)氏は「シャチがザトウクジラを攻撃しなかった理由は不明だ」と話します。
同海域ではシャチがハクジラを捕食するシーンが度々報告されていますが、ザトウクジラは”季節はずれの食べ物”だった可能性もあります。
また、単にシャチがお腹いっぱいだったか、やせ衰えたクジラを狩っても、大した栄養にはならないと判断したのかもしれません。
あるいは、寄生虫だらけのクジラを避けた可能性も考えられます。
それでも調査隊にとって、シャチたちの行動はほとんど利他的なものに見えたという。
しかしやはり、今回のケースは極めて稀で、ほとんどの場合、クジラはシャチの餌食になります。
その証拠と言うべきか、先日このニュースと並行して、シャチの群れが世界最大の動物であるシロナガスクジラの成体を殺し、捕食した記録が、フリンダース大学(Flinders University・豪)により公式に発表されました。
2019年3月に同じブレマー湾にて、約14頭のシャチが水深70mでシロナガスクジラを狩猟したという。
シャチがシロナガスクジラを仕留めた例は、世界でも初めてとのことです。
シャチは複雑な社会生活を営み、共感や感情に関する脳領域が高度に発達している賢い生き物です。
シャチが同じ海の生き物に対して利他的な感覚を抱いているかどうかは不明ですが、今回ばかりは海の仲間に同情心を見せたのかもしれません。
参考文献
Watch an Orca Pod Free a Humpback Whale From a Coil of Rope, Possibly Saving Its Life
Pod of orcas frees a humpback whale from certain death. Was it intentional?
Scientists announce first known case of orcas killing an adult blue whale
提供元・ナゾロジー
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