恐怖に対する一般的な考え方は、「仲間がいると怖くない」というもの。
ところが実際は、「仲間がいることでもっと怖くなる」ケースもあるようです。
アメリカ・カリフォルニア工科大学(Caltech)人文社会科学科に所属するサラ・タシジャン氏ら研究チームは、友人とお化け屋敷に行くことでもっと怖くなると発表しました。
恐怖は伝播して増幅するものだったのです。
研究の詳細は、2022年1月10日付の科学誌『Psychological Science』に掲載されました。
科学者たちはリアルな恐怖体験を求めている
作家の京極夏彦は、「読者を感動させることは比較的簡単にできるが、本気で怖がらせることは難しい」と語ったそうです。
実際、この問題は恐怖の影響の1つである「闘争・逃走反応」について調査する研究者たちを悩ませています。
疑似的な恐怖体験では、人間の体に生じる本当の影響をうまく引き出せません。
かといって、人間に命の危険を感じさせたり、身体的・精神的苦痛を与えたりする実験は、倫理的に許されるはずもありません。
「嘘または実験だと分かっている」被験者が、命の危険を感じるほど怖がることはまずないのです。
つまり、人間の恐怖に対する「闘争・逃走反応」を高い精度で調べるには、倫理的かつリアルな恐怖体験が必要なのです。
そこで今回、実験会場として利用されたのが米カリフォルニア州にオープンした「17th Door Haunted House」です。
お化け屋敷「17th Door Haunted House」は、さまざまな恐怖を体験できる17部屋で構成されており、「窒息」「迫る対向車」「銃殺」などを模した没入感のある非常にリアルな体験が可能。
そのため、このお化け屋敷のレビューには、多くの人が「これまでで最も強烈なお化け屋敷だ」と評しています。
研究チームも、「ここで経験できる恐怖は、アメリカで倫理的に許されている実験よりも、はるかに苦痛を与えるものだった」と述べました。
学生たちがお化け屋敷に行きたかっただけの可能性もありますが、これはまさに人間の闘争・逃走反応を調べるのにピッタリの場所です。
そんなわけでカリフォルニア工科大学の研究チームは、人間の恐怖に関する実験をこのお化け屋敷で敢行したのです。
では、実験の結果はどうなったのでしょうか?
お化け屋敷では恐怖が伝播する
今回の研究では、156人の成人参加者がいくつかのグループに分かれて、お化け屋敷「17th Door Haunted House」を体験。
参加者は、お化け屋敷に入る前に予想される恐怖を10段階で評価し、体験した後に再び同じ尺度で評価しました。
またリアルタイムで生理学的な反応をモニタリングできるリストバンドも装着していました。
その結果、グループの人数が多ければ多いほど、参加者たちが感じる恐怖は高まり、身体的なストレス反応も同様に高まると分かりました。
研究チームによると、「恐怖が伝播していると解釈できる」とのこと。
怖がる友人がいることで、自分の感覚や体も影響を受けてしまい、恐怖に対してより敏感になってしまうのです。
また恐怖を予測できるかどうかも、反応に違いを与えると判明しました。
予測していなかった恐怖は、より強いストレス反応を参加者たちの体に引き起こしていたのです。
さて研究チームによると、今回のお化け屋敷を利用した研究は、「さまざまな側面から反応を測定した信頼性の高い実験と結果」のようです。
ですから、お化け屋敷に行くときは「一緒に行く友人の数が難易度を上げる」ということを覚えておきましょう。
どんな場面でも「怖がらない自分」をアピールしたいなら、少人数で行動してくださいね。
参考文献
Haunted-House Experience Scares Up Interesting Insights on the Body’s Reaction to Threats
Haunted houses are even SCARIER with friends! Visitors are more likely to experience dilated pupils, sweating, and a rapid heartbeat when attending in a group, study finds
元論文
Physiological Responses to a Haunted-House Threat Experience: Distinct Tonic and Phasic Effects
提供元・ナゾロジー
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