光で動くマリモロボが開発されました。

英国の西イングランド大学(UWE)の研究チームは、光合成を動力として移動する生体ロボット「マリモロボ」を開発した、とのこと。

マリモロボの構造は非常に革新的であり、通気孔のあいたプラスチックのカプセルにマリモを入れるだけ

この脅威の発想によって作られたマリモロボは、一切の電子部品を使わず、光を当てるだけで移動させられ、乗り越えられない水中の障害物に対しては、浮かび上がって飛び越すトリッキーな動きができるとのことです。

研究の詳細は1月5日に科学雑誌『Journal of Biological Engineering』にて公開されています。

目次

  1. 光をあてると動き回るマリモロボを開発!
  2. 内部のマリモが環境に漏れる可能性がある

光をあてると動き回るマリモロボを開発!

光をあてると動き回る「マリモロボ」を開発!
(画像=光をあてると動き回るマリモロボを開発! 動力は光合成 / Credit:Canva . ナゾロジー編集部、『ナゾロジー』より 引用)
光をあてると動き回る「マリモロボ」を開発!
(画像=光をあてると動き回るマリモロボを開発! 動力は光合成 / Credit:Canva . ナゾロジー編集部、『ナゾロジー』より 引用)
光をあてると動き回る「マリモロボ」を開発!
(画像=光をあてると動き回るマリモロボを開発! 動力は光合成 / Credit:Canva . ナゾロジー編集部、『ナゾロジー』より 引用)
光をあてると動き回る「マリモロボ」を開発!
(画像=光をあてると動き回るマリモロボを開発! 動力は光合成 / Credit:Canva . ナゾロジー編集部、『ナゾロジー』より 引用)

これまで人類は、生物の生命活動を利用したさまざまな生体ロボットを開発してきました。

無機的なロボットが電池に依存する一方で、生体ロボットは自然界に存在する酸素や栄養素を利用して活動エネルギーを作り出すことが可能です。

これまでたびたび取り上げてきた、カエルの細胞を利用して作った「ぜノボット」シリーズも、水中の有機物(糖)と酸素をエネルギー源として動いていました。

一方、動物の代わりに植物を利用した生体ロボットの研究も行われていました。

動物の細胞と違い植物は、光をエネルギー源にできるため、より持続的な活動が可能です。

そこで今回、西イングランド大の研究者たちは、マリモを複数の通気孔があいたカプセルに入れることで「生体ロボット」にできると考えました。

マリモに対して特定の方向から光を照射すると、光があたった部分では光合成によって酸素が生産されます。

通常のマリモの場合、発生した酸素は全方位に向けて拡散してしまいますが、通気孔があいたカプセルにマリモを入れることで、酸素の放出方向にある程度の指向性を与えられると考えたのです。

早速チームは、拾ってきたマリモを即席のカプセルに詰めて光をあててみました。

しかし残念なことに、適当に穴をあけたカプセルでは、全体を効率的に動かすことはできませんでした。

そこでチームは試行錯誤を繰り返し、カプセルの形状を最適なものに作り直していきました。

結果、4番目に設計された「Mk4」において最大時速「30cm」を達成します。

光をあてると動き回る「マリモロボ」を開発!
(画像=マリモロボが酸素を蓄えて浮揚し障害物を乗り越える様子 / Credit:Marimo actuated rover systems (2022)、『ナゾロジー』より 引用)

また高さ10cmの壁に対しても、上の図のように、真上から光をあてることでカプセル上部に酸素を蓄積して浮揚し、飛び越えて移動することが可能になりました。

なお、マリモロボの耐久年数は最大で数年に及ぶとのこと。

さらに研究者たちがマリモロボが発するエネルギーの合計値を計算したところ、1年間にわたってアルカリ単三電池と同等のエネルギーを生成できる可能性が示されました。

マリモロボは瞬間的なエネルギー生産能力こそ低いものの、既存の生体ロボットに比べてはるかに長時間、活動し続けることが可能なようです。

研究者たちは、マリモロボに水質測定装置などさまざまなセンサーを乗せることで、モバイルセンサープラットフォーム(移動式センサー)として利用できると考えているようです。

ただマリモロボには1つだけ弱点がありました。

内部のマリモが環境に漏れる可能性がある

光をあてると動き回る「マリモロボ」を開発!
(画像=第四世代カプセル「Mk4」において時速30cmを達成 / Credit:Marimo actuated rover systems (2022)、『ナゾロジー』より 引用)

今回の研究によって、安価で作れるマリモロボが開発されました。

現在のマリモロボは、発生した酸素を利用して移動することしかできませんが、光合成では酸素以外にもブドウ糖のようなエネルギー価の高い有機物を作ることができ、これらの有機物を燃料にすれば、より多岐にわたる活動が可能となるでしょう。

一見、マリモをガチャカプセルに詰めただけのように見えるかもしれませんが(実際限りなく近いですが)、生命活動をエネルギー源とする試みとしては極めて良いアイディアだと言えるでしょう。

ただ現在のマリモロボは、カプセルの穴を通じて外部環境と直接的に繋がっているため、マリモの切れ端がカプセルの穴から環境へと流出する可能性があります。

また、カプセルそのものもプラスチック製のために耐久性に乏しく、壊れた場合も同様にマリモの流出につながるでしょう。

実際の自然環境でマリモロボを運用するには、カプセルを生分解性の強固な素材にするだけでなく、穴に何らかのフィルターをつける必要があるかもしれません。

参考文献
Robot piloted by a ball of algae is powered by photosynthesis
Alga comanda un robot grazie alla Fotosintesi

元論文
Marimo actuated rover systems

提供元・ナゾロジー

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