ザリガニは、水生昆虫にとって危険な”殺し屋”であるようです。
このほど、長崎大学の大庭伸也(おおば・しんや)氏、国土環境研究所の渡辺黎也(わたなべ・れいや)氏の調査で、アメリカザリガニが侵入した場所では、水生昆虫の個体数や種数が激減することが判明しました。
とくに、水草を好む大型の水生昆虫は、その個体数が大幅に減っていたとのことです。
研究の詳細は、1月15日付で学術誌『Biological Invasions』に掲載されています。
アメリカザリガニの侵入域で水生昆虫が激減!
もともと日本には、北海道や東北に固有のニホンザリガニ(Cambaroides japonicus)という在来種がいます。
当時、「ザリガニ」と言えば、ニホンザリガニのことを指していました。
しかし、アメリカザリガニ(Procambarus clarkii )が移入・定着したことで、2種を呼び分けるように。徐々に、アメリカザリガニの方が幅を利かせ始め、昭和以降から「ザリガニ」と言えば、むしろこちらを指すようになりました。
その後も強い繁殖力で日本中に広がり、近年では淡水環境への悪影響が懸念され、環境省の生態系被害防止外来種となっています。
本種による水生昆虫への影響は、実験室レベルでは検証されているものの、野外ではまだ確認されていません。
そこで今回の研究では、水生昆虫が存在するエリアにて、アメリカザリガニが侵入した水域と未侵入の水域とで、水生昆虫の種数や個体数を比較。
合計で52種、2721個体が記録されました。
その結果、アメリカザリガニが侵入した水域では、水生昆虫が激減していることが判明したのです。
未侵入域では50種、2405個体が確認されたのに対し、侵入域では23種、316個体にとどまりました。
とくに、水草をエサにしたり、水底を産卵場所として利用する種に大幅な減少が見られました。
代表的なのは、ゲンゴロウやミズムシ、ガムシ、タガメ、ミズカマキリ、ヤゴ(トンボの幼虫)などです。
対照的に、水面付近を拠点とするアメンボやマツモムシは、ほとんど影響を受けていませんでした。
これは、水底付近はアメリカザリガニの魔の手が届くのに対し、水面には届かないことが理由です。
この結果から、アメリカザリガニが影響を与える水生昆虫は、水草をエサとする種、産卵床を利用する種、水底に留まって身を隠す種であることが示されました。
こうした悪影響を防ぐには、アメリカザリガニの侵入を防止すること、初期段階で駆除すること、侵入域での繁殖を抑えることが不可欠です。
しかし、これまでの繁殖力を鑑みると、アメリカザリガニの勢いを止めることはかなり厳しいでしょう。
もしかしたら水生昆虫たちは今後、赤い殺し屋の魔の手を逃れるため、水面や陸地での生活に適応し始めるかもしれません。
参考文献
侵略的外来生物・アメリカザリガニの侵入で希少な水生昆虫類が激減することが判明
元論文
Comparison of the community composition of aquatic insects between wetlands with and without the presence of Procambarus clarkii: a case study from Japanese wetlands
提供元・ナゾロジー
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