平成30年7月、令和2年7月、令和3年8月と、ここ数年毎年のように日本では広範囲に被害をもたらす記録的な豪雨が発生しています。

最近の研究によると、こうした豪雨の原因は、熱帯の水蒸気が中緯度地域へ川のようになって流れ込む「大気の川(Atmospheric River)」と呼ばれる現象と関連していると指摘されています。

ただ、この現象はこれまで、日本を含めた東アジア地域ではそれほど大きな影響は与えていませんでした。

しかし地球温暖化に伴って、今後の日本の気候に大きな影響を与えていく可能性があります。

そこで筑波大学らの研究チームは、過去60年間の東アジアの気象データを調査し、2090年までに大気の川が東アジアにもたらす豪雨の発生頻度と強度をモデル化しました。

それによると今後日本は、台風の接近が少ない春にかけて「経験したことのないような大雨」が増加すると予想されています。

研究の詳細は、2021年12月16日付で科学雑誌『Geophysical Research Letters』に掲載されています。

目次

  1. 大雨をもたらす気象現象「大気の川」
  2. 経験したことのないような大雨が増える

大雨をもたらす気象現象「大気の川」

過去にも散発的な豪雨被害はあったものの、最近は記録的な大雨が毎年発生している印象が強くなっています。

このため、多くの人たちが気候変動という言葉を意識しているでしょう。

しかし、大雨をもたらすような気候変動はどうやってもたらされているのでしょうか?

最近の研究では、この原因として「大気の川」と呼ばれる現象が指摘されています。

「大気の川」とは、熱帯地域で発生した水蒸気が川のようになって、中緯度地域へ流れ込む現象のことです。

大気の川は通常、幅数百km、長さ1500km以上続き、アマゾン川より多くの水を運ぶことができるとされています。

この現象は、これまで北米西岸や欧州で確認されていて、上陸した際に豪雨を引き起こすことが注目され、さまざまな研究が行われてきました。

地球温暖化に伴う「大気の川」で今後日本は”経験のない大雨”が増える
(画像=2010年12月にカリフォルニアに大雨をもたらした大気の川を示す衛星の水蒸気画像 / Credit:en.wikipedia、『ナゾロジー』より引用)

ただ、欧米以外の地域で大気の川が生じるメカニズムはよく分かっておらず、地球温暖化に伴ってその活動が変化した場合の影響については理解が進んでいません。

日本では以前から、大雨をもたらす要因として台風の研究は進められていましたが、最近では台風とは異なる時期に、長期間豪雨が続く線状降水帯と呼ばれるものが確認されています。

これは発達した積乱雲が次々と列をなして発生し、帯状の広い地域に長時間続く大雨をもたらします。

地球温暖化に伴う「大気の川」で今後日本は”経験のない大雨”が増える
(画像=線状降水帯 / Credit:気象庁,顕著な大雨に関する情報、『ナゾロジー』より引用)

この現象は台風とは異なり、同じ場所に数日間も居座って続くところが特徴ですが、詳しいメカニズムについては十分検証されていません。

日本に増えてきた特殊な大雨は、地球温暖化の進行に伴って活動を変化させた、東アジア地域を通過する「大気の川」が要因である可能性があります。

そこで今回の研究は、過去60年間にわたる東アジア地域の大気の川の振る舞いを調査し、降雨強度のデータと比較することで、その影響を明らかにしようとしました。

そして結果は、日本の恐ろしい将来を示唆するものでした。

経験したことのないような大雨が増える

地球温暖化に伴う「大気の川」で今後日本は”経験のない大雨”が増える
(画像=2021年4月に北日本に大気の川によって大量の水蒸気が流れ込んだときの様子 / Credit:筑波大学,気象庁気象研究所、『ナゾロジー』より引用)

研究チームは、1951年から2010年に収集された気象データに基づいてシミュレーションを実行し、そのデータを2090年までモデル化、地球温暖化の進行に伴う地域気候の変化を高解像度で解析しました。

その結果、東アジア地域には、より頻繁に大気の川が通過するようになることがわかったのです。

研究では、現在の日本各地の各月における降雨強度の上位0.1%に相当する雨を「豪雨」と定義しています。

この豪雨の発生頻度を、今後地球温暖化が進んだ場合の大気の変動から予測しました。

すると日本では、現在より気温が4℃上昇した場合、豪雨の発生頻度が春季には約3.1倍、夏季には約2.4倍増加することがわかりました。

地球温暖化に伴う「大気の川」で今後日本は”経験のない大雨”が増える
(画像=地球温暖化時豪雨頻度が増える(左)そのうちの大部分は大気の川によってもたらされる(右) / Credit:Credit:筑波大学,気象庁気象研究所、『ナゾロジー』より引用)

また、日本アルプス上空を大気の川が通過したときの降雨強度の関係を、現在と地球温暖化時で比較したところ、現在では確認されていないような強い水蒸気の流れと豪雨が生じることが示されました。

これは日本においては、これまで「経験したことのない大雨」が頻発する可能性を示唆しています。

地球温暖化に伴う「大気の川」で今後日本は”経験のない大雨”が増える
(画像=春季日本アルプス上空の水蒸気の流れと降雨強度の関係を示した図 / Credit:Credit:筑波大学,気象庁気象研究所、『ナゾロジー』より引用)

線状降水帯などの最近見られる豪雨災害の原因は、まだ詳しいことがわかっていません。

大気の川が日本上空を通過した場合、線状降水帯の発生も活発化すると考えられていますが、これも仮説の段階で十分な検証はされていません。

いずれも今起きている、あるいは今後起きる気候変動の一部で、詳しい研究が進むのは先のことでしょう。

ただ、大気の川の特徴と、持続的に水蒸気が流れ込むことで広い範囲に長時間雨をもたらす線状降水帯の特徴は一致している部分が多く、関連性を無視することはできません。

地球温暖化の進行で起きる気候変動は、徐々に実感を伴って現実を侵食し始めています。

現在、毎年のように頻発している豪雨災害は、ほんの序章に過ぎないのかもしれません。

今回のような研究は、今後やってくる大雨の気候について、どういった地域にどの程度の被害が予想されるか、豪雨災害の予測精度の向上につながると期待されています。


参考文献

地球温暖化により「大気の川」由来の「経験したことのない大雨」が増える
Climate Change Could Open Up ‘Rivers in The Sky’ Over East Asia

元論文

Atmospheric Rivers Bring More Frequent and Intense Extreme Rainfall Events Over East Asia Under Global Warming


提供元・ナゾロジー

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