ブラックホールは、星が崩壊して誕生した太陽質量の数十倍程度の「恒星ブラックホール」と、銀河の中心核となっている太陽質量の数百万倍以上の「超大質量ブラックホール」の2タイプが見つかっています。

しかし不思議なことに、この2つの中間となるような、太陽質量の数十倍~数十万倍というようなサイズの「中間質量ブラックホール(IMBH)」はほとんど見つかっていません。

ところが今回、英国リヴァプール・ジョン・ムーア大学(LJMU)の研究チームにより、アンドロメダ銀河にある巨大星団に太陽質量の10万倍という中間質量ブラックホールを発見した、と報告されました。

この発見は、長年天文学者たちが探し求めているブラックホールのミッシングリンクを埋めるものです。

研究の詳細は、2022年1月11日付で、科学雑誌『The Astrophysical Journal』に掲載されています。

目次

  1. ブラックホールのミッシングリンク
  2. 球状星団ではなく、衝突した「銀河の残骸」か

ブラックホールのミッシングリンク

ブラックホールは、基本的に太陽よりずっと重い恒星が死んだときに形成されます。

そのため、誕生したばかりのブラックホールは太陽の数十倍程度の質量となり、これまでで最大の恒星ブラックホールでも太陽の100倍ほどです。

アンドロメダ銀河に「ブラックホールのミッシングリンク」を埋める存在を発見
(画像=連星を吸い込む恒星質量ブラックホールのイメージ画像 / Credit:ESA, NASA and Felix Mirabel、『ナゾロジー』より引用)

一方、銀河の中心には、太陽の数百万倍以上の質量を持つ超大質量ブラックホールが存在します。

こうした巨大なブラックホールは、普通に考えれば、恒星ブラックホールがどんどん融合して形成されたものと予想できます。

そうなると、宇宙には太陽の数百倍から数十万倍というサイズの中間質量ブラックホールもたくさん存在するはずです。

ところが、そんなサイズのブラックホールは、なぜがほとんど見つかっていません。

中間質量ブラックホールは、球状星団という比較的小さな星の集団の中心になっているという説もあります。

しかし、最近の観測では「球状星団には恒星ブラックホールの群れがあるだけだった」と報告されており、決定的な存在の証拠は見つかっていません。

アンドロメダ銀河に「ブラックホールのミッシングリンク」を埋める存在を発見
(画像=球状星団の中心は「無数の小さなブラックホールの群れ」という観測報告がある / Credit:ESA/Hubble, N. Bartmann、『ナゾロジー』より引用)

中間質量ブラックホールの初めての発見が報告されたのは2012年のこと。

しかし、研究を進めるにはあまりに少なすぎるため、天文学者たちは今もこの珍しいブラックホールを探し求めています。

そんな珍しい中間質量ブラックホールを本研究チームはついに、アンドロメダ銀河にある星団「B023-G078」の中から検出したと発表したのです。

「B023-G078」は以前から知られている天体でしたが、ある理由から見過ごされていました。

実はこの星団、ずっと天文学者たちは球状星団だと考えていたのですが、今回の研究では「B023-G078」が実は低質量の銀河だったと明らかにしたのです。

球状星団ではなく、衝突した「銀河の残骸」か

アンドロメダ銀河に「ブラックホールのミッシングリンク」を埋める存在を発見
(画像=左:アンドロメダ銀河(M31)の広視野画像。赤枠:ブラックホールが見つかったB023-G78の位置と拡大画像 / Credit:Iván Éder; HST ACS/HRC、『ナゾロジー』より引用)

今回、太陽の10万倍と推定される中間質量ブラックホールは、「アンドロメダ銀河(M31)」と共に存在する星団から検出されました。

上の画像がアンドロメダ銀河の中で、赤枠がその星団「B023-G078」の見つかった位置を示しています。

この「B023-G078」を拡大した画像は、一般的に球状星団と呼ばれる天体と酷似しています。

天文学者たちも、「B023-G078」のことはずっとアンドロメダ銀河に付随する球状星団だと考えていたという。

全体の質量を推定するために観測されたのも1回だけで、この星団は太陽質量の約620万倍とされていました。

しかし、この球状星団は、アンドロメダ銀河内でも最大のオブジェクトの1つであり、本研究チームの1人であるユタ大学の天文学者アニル・セス(Anil Seth)氏は、これが何か別のものであると感じていました。

セス氏の予想は、「B023-G078」が球状星団ではなく、アンドロメダ銀河との衝突で星を奪われた銀河核なのではないか、というものでした。

その証拠をつかむべく、研究チームは長年さまざまな望遠鏡で観測を行い、データ分析を続けてきたのです。

球状星団は基本的に同時に形成されるため、質量分布や化学組成は比較的シンプルです。

ところが、銀河同士の衝突で星を剥ぎ取られた銀河核は、質量分布においても球状星団よりずっと複雑になります。

そしてチームが「B023-G078」から見つけたのも、そうした複雑なデータだったのです。

銀河同士の衝突は珍しいことではありません。

アンドロメダ銀河は天の川銀河にもっとも近い銀河の1つであり、40億年後には天の川銀河と衝突すると予想されています。

アンドロメダ銀河に「ブラックホールのミッシングリンク」を埋める存在を発見
(画像=NASAハッブル宇宙望遠鏡が撮影した融合する銀河のこれまでで最も鮮明な画像 / Credit:NASA, ESA, and the Hubble Heritage Team (STScI/AURA)-ESA/Hubble Collaboration; Acknowledgment: B. Whitmore (Space Telescope Science Institute)、『ナゾロジー』より引用)

特に「B023-G078」の中心付近の質量分布を分析したところ、中心近くを高速で周回する星の存在が確認されました。

これをモデル化しシミュレーションしたところ、中心にブラックホールを含まない場合、星の周回速度は観測よりも遅すぎることがわかりました。

代わりにブラックホールを追加すると、観測と一致する周回速度が得られたのです。

この事実も「B023-G078」が球状星団ではなく、アンドロメダ銀河に星を剥ぎ取られた銀河の核であることを示唆しています。

「球状星団が中心部に巨大なブラックホールを形成することは非常に困難です。

もしこれが銀河の核であるなら、大きな銀河に落ちた小さな銀河の残骸としてブラックホールが残されているはずです」

本研究の筆頭著者でリバプール・ジョン・ムーア大学のレヌカ・ペケッティ(Renuka Pechetti)氏はそのように話します。

こうした観測データをもとにそのブラックホールの質量を計算したところ、太陽質量の10万倍程度になることがわかりました。

これはまさに、探し求められてきた中間質量ブラックホールです。

一般的に大きな銀河は、小さな銀河の融合で形成されていくことが知られています。

中間質量ブラックホールは低質量の銀河の中心に存在する可能性が高く、研究者たちは今回のような天体をより多く発見し、詳細に分析したいと考えています。

この広い宇宙では、すでに観測されている場所に重大な秘密がまだまだ隠されているのかもしれません。


参考文献

Extraordinary black hole found in neighboring galaxy

元論文

Detection of a 100,000 M⊙ black hole in M31’s Most Massive Globular Cluster: A Tidally Stripped Nucleus


提供元・ナゾロジー

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