誰もが一度は「赤ちゃんの頬をプニプニと突きたい」「つねりたい」という強い衝動に駆られたことがあるでしょう。
この衝動には単純に優しく撫でる行為と異なり、「イジワルしたい」「からかいたい」という感情が含まれているはずです。
そうした感情は「赤ちゃんやかわいいものは優しく大切に扱うべき」という一般的な考えとは少しズレているように思えます。
アメリカ・カリフォルニア大学リバーサイド校(UCR)教育大学院に所属するキャサリン・スタブロプロス氏ら研究チームは、人間の脳は、「かわいい」という感情が大きくなりすぎると、その感情を「対象の頬をつねる」ことで調整していると発表しました。
研究の詳細は、2018年12月4日付の科学誌『Frontiers in Behavioral Science』に掲載されています。
かわいいものに対する攻撃的衝動「キュートアグレッション」
私たちは、人間や動物の赤ちゃんなど「かわいいもの」を見たときに、自分の歯を食いしばったり、拳を握りしめたりすることがあります。
また、かわいいと思った対象を噛んだり、ギュッと抱きしめたり、つまんだりしたいという衝動に駆られることもあるでしょう。
このような、かわいいものに対する攻撃的な衝動や行動を「キュートアグレッション」と呼びます。
キュートアグレッションは、「優しい気持ちをもっているのにイジワルしたくなる」という、複雑で矛盾した感情であるため、研究者たちはそのメカニズムを解明したいと思っていました。
そしてこれまでの研究により、キュートアグレッションは「大きすぎる感情の調整に役立つ」と考えられています。
人は抱いている感情とは反対の表現を行うことで、大きすぎる感情を調整することがあります。
例えば、とても嬉しいときに涙を流したり、あまりにも悲しくて逆に笑ったりすることがあるでしょう。
研究者たちは、これらと同じく、キュートアグレッションが圧倒的な「かわいい」に脳が対処するために生じている、と推測しているのです。
この作用を証明するためには、キュートアグレッションと脳の働きに何らかの関係性を見いだす必要があります。
そこでスタブロプロス氏ら研究チームは、キュートアグレッション時の脳活動を調査することにしました。
「かわいい」という気持ちが強いほど、脳は「頬をプニプニするよう」勧めてくる
実験には、18~40歳の54人が参加。
参加者たちにはかわいい人間や動物の写真、またそこまでかわいくない人間や動物の写真を見てもらいました。
そして、それぞれの写真を見たときの脳をスキャンし、神経の働きを観察しました。
その結果、キュートアグレッションには、脳の感情処理系と報酬系(期待や快感にかかわる分野)が関与していると判明。
特に報酬系とキュートアグレッションには強い相関関係があると分かりました。
さらに対象がより幼くてかわいいほど、キュートアグレッションの衝動が大きくなることも判明しています。
この脳の反応は、2015年の研究とも関連していると考えらえます。
そこでは、キュートアグレッションに従って行動した人の方がそうでない人より、「かわいい」という感情の高まりを短時間で抑えられたと言われています。
つまりこれらを総合すると、キュートアグレッションには次のようなメカニズムがあると考えられます。
私たちが「圧倒的にかわいいもの」を見たとき、脳はその大きすぎる感情に対処するため、「この子の頬をつねったら、絶対に気持ちいいはず」という期待を生じさせます。
そして実際に対象の頬をつねると脳は快感を覚え、私たちはスッキリして感情の平衡を取り戻すのです。
ちなみに報酬系が関わっているということは、同じ状況になると「またしたい」という気持ちになる可能性があります。
もしかしたら、私たちの多くは既に「かわいいものにイジワルしたい」依存症なのかもしれません。
参考文献
Love pinching babies’ cheeks? Study explores basis of ‘cute aggression’
元論文
“It’s so Cute I Could Crush It!”: Understanding Neural Mechanisms of Cute Aggression
提供元・ナゾロジー
【関連記事】
・ウミウシに「セルフ斬首と胴体再生」の新行動を発見 生首から心臓まで再生できる(日本)
・人間に必要な「1日の水分量」は、他の霊長類の半分だと判明! 森からの脱出に成功した要因か
・深海の微生物は「自然に起こる水分解」からエネルギーを得ていた?! エイリアン発見につながる研究結果
・「生体工学網膜」が失明治療に革命を起こす?
・人工培養脳を「乳児の脳」まで生育することに成功