安倍晋三の先見の明

以上のことから安保法制の成立がなければ、日豪地位協定という取り決めそのものが、成立する余地が無かったことがわかる。それはそれまでの法体系が日米関係の枠組みの中でしか機能しなかったことを意味する。しかし、安保法制のおかげで、アメリカだけではなく、近隣諸国や遠くは欧州までの範囲で、重厚な同盟関係を組み立てることが法律的にできるようになった。

さらに言えるのが、安倍晋三前首相の先見の明である。当時の世論は集団的自衛権の是非だけに焦点が向いており、肝心の詳細まで議論する余裕が無かった。だが、冷静になって再度読んでみると、将来を見据えた発展的な法律だったということが分かる。現在、日本だけではなく、世界的に中国に対する見方が厳しくなっているが、安保法制はまさにそれを予測していただけではなく、その時期が来るための前準備をしていたとも言えよう。そして、そこまで国際社会の趨勢を予見していた安倍前首相の外交感覚には感嘆せずにはいられない。

今年で安保法制の施行から7年経ち、未だにリベラル層の方からは反発がある。しかし、7年前に安倍政権下で植えられた安保法制という「種」は着実に日豪円滑協定という「実」になり、日英(交渉中)や日仏(20日の2プラス2会談で事務レベルでの議論を開始することを確認)の円滑協定という新たな「芽」も見せ始めている。日本の安全保障政策は従来の日米同盟の構造から飛躍し、加えてバージョンアップもしているのである。

あれほど物議を醸した安保法制の効用がやっと見に見える形で現れ始めている。そして、厳しさを増す安全環境の中で日本が生き残っていくための道しるべとなっていくであろう。

文・鎌田 慈央/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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