赤ちゃんの頭には魔法がかかっているようです。

イスラエルのワイツマン研究所(WIS)で行われた研究によれば、人間の赤ちゃんの頭から発せられる揮発性物質には、男性の攻撃性を減らす一方で、女性の攻撃性を増加させる効果があった、とのこと。

男性の攻撃性が減ることで赤ちゃんの虐待が防がれ、女性の攻撃性が増加することで赤ちゃんを守る勇敢さが与えられたと研究者たちは結論付けています。

自分の血を引かない子に対して常習的な子殺しを行っているチンパンジーやライオンと比べて、人間は弱き者を大事にする理性と道徳が備わった存在、とする意見もありますが……少なくとも赤ちゃんが自衛の必要に迫られる程度には、人間もチンパンジーやライオンに近かったようです。

研究内容の詳細は11月19日に『Science Advances』で公開されました。

目次

  1. 赤ちゃんの頭の匂いは男性を落ち着かせ、女性を勇敢にすると判明!
  2. 男性は20%のマイナス、女性は20%のプラス
  3. 赤ちゃんの頭の匂いは男性による虐待を防ぎ女性に戦う勇気を与える
  4. 男性のイライラや女性の心がくじけそうなときには赤ちゃんの頭が効くかも

赤ちゃんの頭の匂いは男性を落ち着かせ、女性を勇敢にすると判明!

赤ちゃんの頭の匂いは男性を落ち着かせ、女性を勇敢にすると判明!
(画像=赤ちゃんの頭の匂いは男性を落ち着かせ、女性を勇敢にすると判明! / Credit:Canva . ナゾロジー編集部、『ナゾロジー』より引用)

私たち陸上に生きる哺乳類にとって、空気中に漂う匂いは、精神と行動に大きな影響を与えます。

例えばウサギの母親は、見知らぬメスの匂いがついた子ウサギを攻撃して殺してしまいます。

またマウスの涙に含まれるペプチドを塗られた子マウスは、オスによる虐待や子殺しを回避しやすいことが知られています。

また人間においても涙の効果が認められており、人間の涙が発する匂いには、男性のテストステロンを減少させる効果が報告されています。

しかし人間の攻撃性の基盤となっている神経回路は十分に解明されていません。

そこで今回、ワイツマン研究所(WIS)の研究者たちは、人間の攻撃性を変化させられる「匂い」の存在と、脳に与える影響について調べることにしました。

候補となった匂い成分は、人間の赤ちゃんの頭から大量に放出されるヘキサデカナール(HEX)と呼ばれる無臭の化合物です。

調査にあたっては、126人の被験者たちに「怒りをかきたてるゲーム」を、半分はヘキサデカナール(HEX)を漂わせた部屋で、もう半分はただのオイルを漂わせた部屋で行ってもらいました。

ゲームは昨今ブームの仮想通貨がペアとなった2人に対して提示され、取り分の合意ができたときのみ、2人に報酬が渡されるという形式をとります。

被験者たちは研究者から、相手もまた人間であると伝えましたが……実はコンピューターでした。

さらに被験者たちにとって不愉快なことに、相手は非常に強欲に設定されており、90%以上の取り分を常に要求してきました(被験者の取り分は10%以下)。

当然ながら被験者たちの怒りはかきたてられていきます。

次に研究者たちは被験者たちに「復讐」の機会を与えました。

研究者たちは被験者たちに、手元のボタンを操作することで、強欲な相手の耳に大音量のブザーをお見舞いできると告げます。

ただブザーの音量は「少々うるさい」から「爆音」まで選ぶことができました。

すると、非常に面白い結果がみえてきました。

ヘキサデカナール(HEX)は男女の攻撃性に真逆の影響を与えていたのです。

男性は20%のマイナス、女性は20%のプラス

被験者たちの「復讐」はヘキサデカナール(HEX)によってどのように影響を受けたのか?

謎を確かめるため研究者たちは被験者たちが行った「復讐」の結果を分析しました。

するとヘキサデカナール(HEX)を吸い込んでいた男性は、そうでない男性に比べて復讐としてくらわせる音量が約20%低下していました。

一方で女性の場合は真逆でした。

ヘキサデカナール(HEX)を吸い込んだ女性は、そうでない女性に比べて相手に復讐としてくらわせる音量が約20%増加していたのです。

この結果は、赤ちゃんの頭から豊富にたちのぼるヘキサデカナール(HEX)には、男性の攻撃性を減らす一方で、女性の攻撃性を増加させる効果があることが示されました。

また脳の活性パターンを調べたところ、ヘキサデカナール(HEX)を嗅ぐことで男性の攻撃性をうみだす脳領域同士の接合が弱まっていた一方で、女性の攻撃性にかかわる接合が増加していました。

どうやらヘキサデカナール(HEX)は人間の脳の接続性に性別ごとに異なる影響を与え、攻撃性の増減を引き起こしていたようです。

問題は、その理由です。

赤ちゃんの頭から発せられる匂い成分「ヘキサデカナール(HEX)」にはなぜ男女で真逆の反応を引き起こしたのでしょうか?

赤ちゃんの頭の匂いは男性による虐待を防ぎ女性に戦う勇気を与える

赤ちゃんの頭の匂いは男性を落ち着かせ、女性を勇敢にすると判明!
(画像=赤ちゃんの頭の匂いは男性による虐待を防ぎ女性に戦う勇気を与える / Credit:Canva . ナゾロジー編集部、『ナゾロジー』より引用)

なぜヘキサデカナール(HEX)は男女で真逆の反応を引き起こすのか?

研究者たちはその原因を、虐待防止と防衛闘争だと考えました。

うまれてきた赤ちゃんにとって第一の脅威は、血のつながらない男性だからです。

男性にとって自分の遺伝子を運んでいない赤ちゃんは、虐待や殺害の対象となります。

血のつながらない子供の殺害は人間に最も近いチンパンジーなどではよく見られる事件です。

オスは他人の子供を殺すことでメスに自分の子供を妊娠させることが可能となるからです。

人間は理性の生き物であり、そのような野蛮な子殺しとは無縁と思いたいところですが、赤ちゃんが防衛策を必要とするほどには、人間社会も男性による子殺しが蔓延していたようです。

赤ちゃんを殺そうと抱き上げると、赤ちゃんの頭がちょうど鼻の下にきてヘキサデカナール(HEX)が効果的に男性の鼻に吸い込まれることになり、攻撃性を低下させ「思いとどまらせる」ことが可能になります。

一方、ヘキサデカナール(HEX)によって女性の攻撃性が上がる理由は、男性を含む敵との闘いのためだと考えられます。

赤ちゃんの頭の匂いは女性の報酬系を刺激することが知られていますが、同時にヘキサデカナール(HEX)によって攻撃性が高められることで、大切な存在を戦って守ることが可能になります。

子育て中の動物のメスが攻撃的になることが知られていますが、人間の場合、赤ちゃんの誘導によって女性の攻撃性が高まるようです。

男性のイライラや女性の心がくじけそうなときには赤ちゃんの頭が効くかも

赤ちゃんの頭の匂いは男性を落ち着かせ、女性を勇敢にすると判明!
(画像=男性のイライラや女性の心がくじけそうなときには赤ちゃんの頭が効くかも / Credit:Canva . ナゾロジー編集部、『ナゾロジー』より引用)

今回の研究によって、赤ちゃんの頭から豊富に立ち昇る匂い成分ヘキサデカナール(HEX)が、男性の攻撃性を低下させる一方で、女性の攻撃性を増加させることが示されました。

ヘキサデカナール(HEX)は人間の脳の接続性に作用し、攻撃性をうみだす脳の接合性を操作していたのです。

また同じ赤ちゃんの匂い成分が男女で異なる効果を発揮するのは、自分の存在に敵意を持つ男性からの虐待を防ぎつつ、自分を保護してくれる女性の戦闘意欲をかきたてるという、赤ちゃんの生存戦略の成せるわざだと、研究者たちは結論付けました。

人間は理性の生き物ですが、その理性を用いて計画的な殺人を可能とします。

赤ちゃんは自分を保護してくれる女性を勇敢にするとともに、危害を加えようとする男性に心理操作を行って、生存能力を上げていたのです。

研究者たちは今後、人間の攻撃性に影響を与える化合物を理解することで、人間関係の円滑化や虐待防止につながると考えています。

イライラがつづいて辛い男性や、心がくじけそうな女性がいれば、赤ちゃんの頭の匂いを嗅いで、元気をもらうといいかもしれませんね。

参考文献
Body Odor Chemical HEX Surprising Effects: Compound Calms Men But Triggers Aggression in Women

元論文
Sniffing the human body volatile hexadecanal blocks aggression in men but triggers aggression in women

提供元・ナゾロジー

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