ネコは飼い主の声に反応しないことがありますが、これは「本当は分かっているのに、聞こえないふり」をしているだけです。
そして新しい研究では、単に飼い主の声を識別できるだけでなく、その情報に基づいて飼い主の位置を追跡(トラッキング)する能力もあると判明しました。
京都大学の心理学者である高木 佐保(たかぎ さほ)氏ら研究チームが、ネコが頭の中の地図を使って、飼い主が今どこにいるか把握し続けていたことを明らかにしたのです。
研究の詳細は、2021年11月10日付の科学誌『PLOS ONE』に掲載されました。
見えない対象を追跡・把握するトラッキング能力

ヒトは、周囲の家族や仲間が今どこにいるか、自然と追跡(トラッキング)しています。
例えば、自分は部屋にこもっていたとしても、少し前に聞こえてきた話し声から、「家族は今もリビングにいる」と考えます。
現時点で視覚や聴覚から情報が入ってこなくても、記憶した情報によって頭の中で家族の現在地を把握できているのです。
ヒトはこの能力を生後8カ月ごろから発達させ始め、早い段階で獲得します。
これにより幼児は、両親や介護者が視界からいなくなっても、実際に消え去ったわけではないと理解するようになるのです。
そして以前の研究では、チンパンジーやオランウータンなども同様のトラッキング能力をもつことが実証されてきました。
では他の動物は優れたトラッキング能力を有しているのでしょうか?
高木氏はネコと飼い主の関係において、このトラッキング能力が発揮されているか調べることにしました。
ネコは飼い主の位置を把握できていた
実験には、合計50匹の飼い猫が参加。
まずドアと窓があるテストルームにネコを1匹ずつ配置します。
ドアと窓は4m離れており、それぞれにスピーカーが設置されました。

そして実験が開始されると、スピーカーから次のパターンで音声を流し、ネコの反応を観察しました。
- ドアから飼い主の音声が流れ、その2.5秒後、再び同じドアから飼い主の音声が流れる
- ドアから見知らぬ人の音声が流れ、その2.5秒後、再び同じドアから見知らぬ人の音声が流れる
- ドアから飼い主の音声が流れ、その2.5秒後、今度は窓から飼い主の音声が流れる
- ドアから見知らぬ人の音声が流れ、その2.5秒後、今度は窓から見知らぬ人の音声が流れる
50匹分の実験を繰り返した結果、①②④のケースでは、ネコは特に驚いた様子を見せませんでした。
ところが、③のケースだけ、ネコは強く驚いた様子を見せたのです。
このことは、ネコが飼い主の声を聞き分け、その位置を追跡・把握する能力があることを示唆しています。
ネコからすると、「ドアの向こうにいた飼い主が、窓の外へテレポートしたように感じた」ことでしょう。

また別の実験では、スピーカーからネコの音声や電子ノイズを流しましたが、ネコがそれらの「音声テレポート」に強く驚くことはありませんでした。
高木氏は、ネコの音声に反応しなかった理由について、「ネコ同士の識別は声ではなくニオイなのかもしれない」と推測しています。
さて、今回判明したネコのトラッキング能力からすると、飼い猫は私たちの居場所をいつも把握していると言えます。
しかし、これまで飼い猫たちは、私たちの存在を気にするようなそぶりをあまり見せてきませんでした。
新しい研究によって、ネコたちのツンデレ具合がますます暴かれているようです。
参考文献
Your cat is using your voice to constantly track your location inside the house
You can’t hide from your cat, so don’t even try
元論文
Socio-spatial cognition in cats: Mentally mapping owner’s location from voice
提供元・ナゾロジー
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