前日のコラムで中国の新型コロナ防疫「ゼロコロナ」について書いたが、ドイツの著名なウイルス学者クリスティアン・ドロステン教授(シャリテ・ベルリン医科大学ウイルス研究所所長)は現在のコロナ感染状況について、「年末までにはパンデミックは終わりを迎え、風土病的な状況(endemischen Zustand)に近づくだろう」と語っている。同教授が複数の独紙メディアに語った内容の概要を報告する。

「パンデミック」から「風土病的状況」へ
(画像=オミクロン変異株(独日刊紙ビルド2021年12月15日電子版から)、『アゴラ 言論プラットフォーム』より 引用)

欧州では新型コロナへの対応は「ロックダウン」(都市封鎖)から「ウィズコロナ」政策へ移行してきているが、ドロステン教授は、「パンデミックの終わりが視野に入ってきたことは事実だが、それが風土病的な状態となるためにはまだ長い道のりがある」という。どのような道のりだろうか。

ドロステン教授は、「われわれはコロナウイルスを防ぐために全国民に長期的にワクチン接種を持続的に行うことは出来ない。ウイルスは最終的には全ての国民に感染するだろう。それを回避することは出来ない。Sars-Cov-2(新型コロナウイルスの正式名称)を完全に制御下に置くことができると考える人はいたが、それは間違いだ。一方、Sars-Cov-2が無害であると考え、ウイルスの感染による集団免疫説が正しかったという意味ではない」という。

オミクロン株が発生した南アフリカでは(感染を通じて)集団免疫的な状況が既に生まれてきている。ドイツではワクチン接種でそこまで到達していない。60歳以上の国民300万人が未接種者だ。オミクロン株の感染を防ぐためには3回目のワクチン接種が必要だ。それらを計算すると、ドイツにはワクチン接種を受けていない60歳以上の脆弱な年齢層が900万人いることになる。だから、ウイルスが遅かれ早かれ全ての国民を感染させるからといって、ウイルスに自由な動きを許すことはドイツのワクチン接種状況からはできないという話だ。

だから、ワクチン接種を進めながら、コロナ感染の爆発をコントロールしていき、ワクチン接種率がある段階に到達すれば、ウイルスに感染の自由ハンドを与え、人間は免疫力を更新していく。そしてウイルスと人間が共存できる段階に入っていくというシナリオだろうか。その段階になれば、コロナウイルスはパンデミックではなく、風土病的な状態に置かれるというわけだ。

同教授は、「ワクチン接種を受けた人の中にも感染している人が少なくないが、ワクチン接種が無意味というわけではない。ワクチン接種を受けることでウイルスの変異株にブレーキをかけるからだ。オミクロン株は、エンジンは大きくなく、タイヤが広いため、地形をうまくドライブできる車のようだ(感染力が強い)。しかし、予防接種を受けると、ゆっくりとしか動けなくなり、多くの泥や未舗装の道路では走るのが難しくなる」と説明し、ブースター接種の意義を述べている。

ドロステン教授は、「今年の夏はオープンな社会で過ごすことができるだろう。しかし、オミクロンは存在し続ける。重要な問題は、来年の冬までに十分な免疫が達成されるかどうかだ。遅くとも秋までにリスクのある高齢者に追加接種を勧めるべきだ」と強調する。

ちなみに、オミクロンは「異なる血清型」、つまり特別な抗体を必要とする異なる抗原特性を持つ変異体である可能性が非常に高いため、現在のワクチンを適応させる必要があるという。同教授によれば、われわれは第2四半期には最新のオミクロンワクチン接種を受けることが出来るだろうという。アルファとデルタは人間の免疫システムにうまく適応してきたが、オミクロンは免疫回避型だ(「独ターゲスシュピーゲル紙1月16日)。

Sars-Cov-2からの変化の可能性は限られている。ウイルスはスパイクタンパク質の構造をあまり変更できないが、ウイルスが使用できる特定の限られた突然変異スペースがある。インフルエンザの場合、5~8年ごとに変異するが、そのような飛躍はオミクロンでも起きている。これは、将来、数年ごと、おそらくもっと頻繁に起こり続けるという。

ちなみに、ウイルス学者のクラウス・シュテール氏もパンデミックの終結を予想している。同氏は、「コロナ感染症は、許容範囲内の病気であり、インフルエンザなどの他の呼吸器疾患と同じになる。人口の大部分が軽度かつ無症候性に感染し、抗体を持っている場合、いわゆるコンタクトトレーシング検疫はもはや無意味だ。パンデミックから抜け出すための最良の方法は、ワクチン接種とその後の感染だ。このパッケージには長期的な免疫保護がある」と主張している。

文・長谷川 良/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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