新型ホンダ・フィット 試乗記
フロントマスクは「柴犬」をイメージ、愛着が湧く
歴代フィットはシンプルなワンモーションフォルムを採用。独創のセンタータンクレイアウトにより、ライバルを圧倒する広い室内空間を実現した。2020年2月に発売予定の4thモデルは、フィットならではの魅力と個性を継承。ひと目でフィットとわかるスタイリングだ。新型は「コンパクトカーの新たなグローバルスタンダードを樹立する」(メーカー)意欲作である。
フロントマスクはファニー。フランスやイタリアのラテン系の顔が思い浮かぶが、イメージしたのは柴犬だという。なるほどそういわれるとそう見える。クルマとしてオーナーに従い、使い込むほどに家族の一員になるイメージだ。フレンドリーで愛着がわく存在感が好ましい。
プロポーションは適度に躍動的だ。デザイナーは「なるべく線をなくし、シンプルな造形を目指した」という。ベルトラインをノーズに向かって下げていくウエッジシェイプから、Aピラー付け根でキックアップしてボンネットのプレスラインに融合する巧みなライン構成は、見事。歩行者保護のために分厚くなりがちなフロントフェンダー後端を、そうとは感じさせない面構成でまとめている。
新型の優れた個性は、ワイドな視界だ。運転席に座るだけでスッキリと広い世界が広がる。まるで〝平面ガラス"を通して見るような、目が休まる気持ちよさである。
Aピラーは三角窓を含めて二重構造。メイン骨格はドア側の後方のAピラーが受け持つ。細い前方Aピラーはガラスを支えるだけの存在。こうした工夫で視界はワイド。ここだけを見ても、コンパクトクラスの新たな指針になる。「技術のホンダ」らしい設計である。
新型は個性明快5グレード構成、新型の乗り味を全面刷新
新型は、基本となるホームを中心に、ビジネスユースにも使えるベーシック、フィットネス感覚のスポーティテイストをプラスしたネス、上質感をアピールするリュクス、そしてアクティブなクロスターの5グレード構成。詳細は量産モデルが発売されてから確認するとして、さっそく試乗に移る。
試乗車はプロトタイプ。試乗の舞台は北海道の鷹栖プルービンググランド。高速周回路と欧州のカントリーロードをイメージした荒れた路面だった。
まず現行モデルと比較。低速で路面のハンプを乗り越える際のサスペンションストローク感が、新旧モデルで明確に異なる。
現行モデルは前後輪それぞれが路面の凹凸を乗り越えるたびに、ボディ全体が揺れる。ホンダらしいといえばホンダらしい、固いストローク感だ。
新型は前輪は前輪のみ、後輪は後輪が通過したときだけ、じつにスムーズにサスをストロークさせて、車体は一定のまま揺れない。こうした柔軟な足回りの動きは、新型N-WGNでも感じた。これは、ホンダの操縦安定性と乗り味の規準が大きく変革したことを告げている。
新型は足回りのフリクションをどこまで落とせるかに注力したという。滑らかなストロークと減衰が新たな乗り味を形成している。
パワーユニットは1.3リッターと新2モーター・ハイブリッドの2種
パワーユニットは2種。新型は1.3リッターガソリンと1.5リッターエンジンと2モーターを組み合わせたハイブリッドを設定。ハイブリッドは新たにe:HEVを名乗る。
試乗はガソリン1.3リッターから。まずは高速周回路でフル加速。エンジン音に雑味はない。高回転域は勇ましいが、心地いい音色である。
CVTは、全開加速時に変速の段ツキ感を演出する。全開加速から急減速する際にスナッチは感じない。180km/h付近でもロードノイズや風切り音は、完璧に抑え込まれていた。ワンランク車格が上がった印象である。
サスのストロークと減衰によるボディコントロールは素晴らしい。高速走行時は高い剛性を感じ、郊外路で車速を上げると操作に対する高精度が実感できる。
続いてハイブリッドに試乗。1.5リッター+2モーターシステムは、高速走行を除き、日常のほとんどをモーターで走行する。エンジンは主に発電用に使う。
パフォーマンスは優秀だ。全開加速時は空転感を少し感じるが、巧みなモーター制御の効果で、空転を気にするよりも先に車速がオーバーシュートするかのように伸びる。このハイブリッドは気持ちがいい。
高速直進性は抜群。レーンチェンジなど、ステアリング操作をしたときの、舵角とロールの始まりにズレがない。新型はアクセル、ブレーキ、ステアリング操作のすべてが自然につながり、スムーズに走る。こうした性能がクルマとして何よりも重要だ、という核心をフィット関係者は熟知している。
高速から急減速しながら郊外路に進入する。減速Gを加えながらのステアリング操作でノーズがインを向く変化は、まるでドイツ車のようだ。安定性と各部剛性感の高さにほれぼれした。
優秀な操縦性は新型の個性。完成度はハイレベル
凹凸とザラついた路面のコーナーをトレースしていくと、「舵角以上にコーナーに吸い込まれて曲がる」印象を受けた。中~高速域でのニュートラルの収まりはスローなギア比で、低~中速域で大舵角を与える際はクイックなステアリングギアレシオになるVGRが、「やや利きすぎ」のように思った。だが、現行フィットとは明らかに異なる操縦性は、新型の個性のひとつだ。
体を優しく包み込むシートの感触も新しい。フィットのデビューは2020年2月。新型トヨタ・ヤリスと同時期に販売が開始される。日本のコンパクトハッチの2大巨頭の揃い踏みだ。ボク自身はフィットに分があると感じているが、ユーザーの評価はどうか。大いに気になるところだ。
Writer:桂伸一 Photo:HONDA
提供元・CAR and DRIVER
【関連記事】
・ジープの象徴モデルのラングラーが年次改良。同時に日本市場のニーズに合わせた仕様変更を実施。限定車もリリース!
・カフェレーサースタイルを纏った次期型N-ONEのプロトタイプが世界初公開!
・静粛性と操縦安定性を追求、ダンロップ・ビューロVE304新発売
・メルセデス・ベンツ物語 その1
・連載32回 お父さんに朗報! 家族も喜ぶ最速SUV、MINI・JCWクロスオーバー