20世紀初頭、一介の新興時計メーカーに過ぎなかった『ロレックス』。なぜ後発メーカーが、高級時計界を牛耳る存在にのし上がったのか。その鍵となる3つの発明を解説しよう。

ロレックスのブランド力は「信頼」からできている 

ロレックスは高級時計ブランドとして抜群の知名度と人気を誇る。その別格の立ち位置は、ここ日本だけではなく世界中で共通だ。そんなロレックスの魅力を語るとき、「信頼性」という言葉が使われることが多い。

その「信頼性」を具体的に見ていくと、時間が狂いにくいだとか、タフで壊れにくいだとか、機能性や実用性を表す言葉に行き着く。逆に、ラグジュアリーで高級感あるデザインだとか、伝統的な技法を採用し気品に満ち溢れているとか、プレステージブランドをよく形容する言葉で語られることは少ない。

事実、ロレックスの時計は信頼できる。他の高級機械式時計に比べても精度が高く狂いにくいし、何よりタフだ。ロレックスがこれほどまでにブランド力を高められた理由のひとつは、間違いなくこの高い信頼性にある。

だが、ロレックスが誕生した時代背景を見ていくと、違う景色が見えてくる。後発の時計ブランドとして誕生したロレックスにとって、実用性を極めることでしかブランド力を高めるすべがなかったとも言えるのだ。

歴史の浅さがロレックスというブランドを作り上げた

ロレックスは1905年創業と、スイスやドイツの名門時計ブランドとしては歴史が浅い。創業時には何百年に渡って王侯貴族に時計を献上してきた由緒あるブランドや先行する名門ブランドが多く存在していた。ちなみに日本の『セイコー』の前身、服部時計店の創業は1881年である。そんな新興メーカーであるロレックスが勝負できるのは、新しい時代に即した機能性や実用性しかなかったと言える。

当時、個人が時刻を知るために使われていたのは主に懐中時計で、腕時計は女性のための装飾品、嗜好品という側面が強かった。つまりアクセサリーだ。ロレックスが試みたのは、この腕時計を信頼性のある真の実用品に変えること、そして、来るべき腕時計の時代で圧倒的な地位を獲得することだ。そんなロレックスが発明した、今では当たり前になっている3つの機能がある。ロレックスの3大発明と呼ばれる革新的な機構とは何か。

時計の大敵である水をシャットアウトする「オイスターケース」

金属の天敵と言えば、サビの原因となる水だ。時計にとっても、水の問題は厄介だった。内部に水分が侵入すればたちまち歯車がサビつき、故障の原因となってしまう。ロレックスは、服の下に収めていた懐中時計に比べ水気にさらされることが多い腕時計時代になれば、防水の必要性は格段に増すと考えた。

ロレックスがとった解決策が、1926年に発明されたオイスターケースだ。牡蠣(オイスター)の殻のように閉じられていることから「オイスター」の名が与えられたケースは、ひとつの金属塊から削り取って形成されている。さらに潜水艦のハッチから着想を得て、裏蓋、ベゼル、リューズを接続する部分にネジ山が切られ、各部品をケースにネジ込む構造になっている。

それまでの腕時計はスナップ式で、各部品をケースにはめ込むのが一般的だった。はめ込むのではなく、ネジ込むことで密閉性を確保したことで、オイスターケースは防水性が飛躍的に向上した。その結果、当時としては最高となる50m防水を達成したと言われている。

ロレックスは1926年に、このオイスターケースで特許を取得、翌1927年には世界初の防水型腕時計「ロレックス オイスター」を着用したイギリス人女性、メルセデス・グライツがドーバー海峡横断に成功している。

もっとも、このとき着用していた「オイスター」は、市販品ではなく、特別な防水処理が施されたモデルという説もあるが、ロレックスはこの快挙を、新聞の一面広告に掲載し、大々的に先進性とタフさをアピールした。ロレックス=水に強くタフで丈夫な時計というイメージは、この時代から始まっていたのだ。

真の実用自動巻き機構「パーペチュアル」

機械式時計はゼンマイがほどける力で駆動するため、必ずほどけたゼンマイの巻き上げが必要になる。自動巻き機構が開発されるまで、リューズを手動で回すことでゼンマイを巻き上げていた。今で言う手巻き時計だ。

一方、自動巻き時計は、着用者の腕の動きをローターの回転運動に変え、ゼンマイの巻き上げを自動で行う。着用してさえいれば、時計はとぎれることなく動き続けるのだ(ローターは腕の動きで回るので、着用してもまったく動かなければもちろんゼンマイは巻き上げられない)。

この自動巻きは今や必須の機能と言えるもので、懐古主義的な時計をのぞけば、現在の機械式時計のほとんどが自動巻きだ。この、自動巻き機構の原型を作ったのがロレックスなのだ。

自動巻き機構は1770年に、かの天才時計師アブラアン-ルイ・ブレゲも開発していたほどだからその歴史は長い。世界で初めて自動巻き腕時計を開発したのもロレックスではない。1924年にイギリス人時計師ジョン・ハーウッドがローター式自動巻き機構の特許を取得、1926年に『フォルティス』から「ハーウッド」というモデル名で発表された。

とは言え、ハーウッドが開発した自動巻き機構のローターは、シーソーのように上下運動するもので、巻き上げ効率が悪く耐久性にも難があったため、1931年にはあえなく生産中止になっている。

同じ1931年、ロレックスは360度回転するローターを備えた自動巻きムーブメント「パーペチュアル」を発表した。このパーペチュアルではローターを360度全回転させることで、巻き上げ効率が大幅に向上させることに成功した。もちろん、特許も取得している。

この全回転ローターは、現在の自動巻き時計でも用いられており、ロレックスの功績は大きい。真に実用的な自動巻き機構はロレックスが開発したと言っても過言ではないのだ。

日付表示が一瞬で変わる「デイトジャスト」

上記2つの機構に比べるとインパクトは劣るものの、ユーザー目線の実用性という意味で、ロレックスの開発姿勢が垣間見えるのが「デイトジャスト」だ。デイトジャストは、深夜0時になると、日付表示が一瞬にして切り替わる、ロレックスの独自機能だ。

通常、時計の日付表示は、日付がプリントされたディスクを回転させ該当の日付をデイト小窓に表示させる。ディスクを回転させる駆動力は、時計を動かす動力源と同じゼンマイからとる。

ゆえにパワーロスを抑えるため、ゆっくりと日付ディスクを回転させることになる。日にちが変わるまでの数時間のあいだは、デイト小窓から日付ディスクが徐々に回転し日付が更新されていく様子が見て取れるのだ。たとえば、1日から2日に替わる前の数時間は、徐々に「1」の表示が欠けていき、「2」の表示が姿を見せる。つまり、数字が欠けた状態で表示される時間があるわけだ。

しかしロレックスは深夜0時きっかりに一瞬で日付が切り替わる。これはデイトジャスト機構が24時間で一周するホイールに取り付けられたフィンガー突起が強力なスプリングを駆動させ、日付ディスクを弾くように動かすためだ。

バネを使った単純な機構に聞こえるかもしれないが、スプリングがちょうど一日分弾きしっかりデイト窓枠内に該当の日付部分を収めるよう止めるための調整が非常に難しく、高い技術力が必要とされる。

デイトジャストは、なければないで気にならない機能とも言える。だが、ロレックスは表示がズレた状態の数字が表示されることを許さなかった。正確に判読可能な状態で日付を常に表示し、時計を見た瞬間正確に情報を得られる。そんなこだわりこそが、ロレックスの信頼性につながっているのだ。ちなみにロレックス以外の機械式時計は、欠けた状態のデイトを表示するモデルが今でも多い。

ロレックスは時計界のGAFA?

ロレックスは懐中時計が一般的だった時代に、腕時計の時代が来ることを予見し、いち早く腕時計に必要な機能の発明を行った。結果はご覧の通り、数百年の歴史を持つプレステージブランドを打ち負かし、腕時計時代の支配者になっている。

これはIT時代のパラダイムシフトに対応し、現在世界を支配しているGAFAの姿とだぶるところがある。伝統的な大企業の重鎮たちが顔をしかめるような若者たちが、時代の変わり目に一気に主役に躍り出たのだ。

一介のベンチャー企業にすぎなかったロレックスも、時代を読み、それに対応したテクノロジーを開発して高い信頼性を得ることで今の地位を築いた。そのコアなテクノロジーがロレックスの3大発明と言えるだろう。

文・吉本隆太(時計ライター)
 

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