「10%のトルコ・リラ債券なら負けない?」は、2017年末に出版した私の著書の一項目だ。この内容を知らずに投資し、現在元本割れをしてしまっている方もいるだろうが、メッセージが届かず残念だ。また「これだけリラが下落しているのだからチャンスだ」と考える人が事前に知っておいてほしい内容がある。

トルコ・リラ、1年で49%の下落

2018年8月10日、トルコの通貨リラは大幅に下落した。ドルベースでは8月10日の1日で20%もの下落があった。

トルコ側は「テロ組織を支援した米国人の牧師を拘束」しているという立場で、牧師が2016年7月のクーデター未遂事件を支援していたのではという見方のようだ。米国は開放を求めたが、トルコ側はこれを拒否し関係が急速に悪化した。鉄鋼やアルミに対する追加関税の方針も打ち出し、泥沼化している。

TRYJPY(トルコリラ・円)では一時15.4631円という水準を付け、16.2628辺りで推移している(8/13 AM8:15現在)。約1年前の2017年9月1日時点では32.1475円であったので、約1年で49%もの下落となってしまった。

債券の表面利率が10%でも15%でも18%でも、その配当を上回る為替の差損が発生している。為替の水準が変わることで、受け取る配当をはるかに超える損失を被る事例と言えるだろう。しかし、為替の変動の損失以外にも新興国債券には注意すべきところもあるのだ。

18%のトルコ・リラ債券なら負けない?手数料水準は?

筆者は2017年末に出版した著書の一項目で、「10%のトルコ・リラ債券なら負けない?」という内容を記し、トルコ・リラ債券の注意点を述べた。改めて内容について振り返り、現状に置き換えてみる。

両替手数料、片道2.0円は往復コスト24%?

普段からトルコ・リラを持っている人など考えられないだろう。ほとんどの投資家がトルコ債券に投資をする場合には円からトルコ・リラに両替をすることになる。しかし、その両替手数料の水準については、債券などの書類には直接記載されていない事例も多く不親切だ。実際に計算してみると、為替手数料が高いことを実感できるだろう。

例えば円から、外貨に両替する手数料が仮に1.5円であった場合は、手数料は 9.22%、手数料2.0円であれば12.30%も払うことになる。

【為替手数料のコスト計算】
 1.5円÷16.26円≒9.22%
 2.0円÷16.26円≒12.30%
この、円からトルコ・リラに投資した後(片道)、円に戻す時(往復)にも同じ手数料がかかる。往復の手数料では12.30%×2=24.60%になる場合も考えられるわけだ(為替相場が変化しなかった場合)。

手数料が無料?新興国通貨の為替手数料は、イメージに注意!

ドル建ての投資を行っている投資家は、自身のコスト感覚に注意する必要がある。例えば ドルベースの為替手数料の水準を、自分の基準にしてしまう例が考えられる。ドルベースの為替手数料1.5円は 1.36%である。

1.5円÷110.25円(USDJPY)=1.36%

これをトルコ・リラなどにも同じイメージを適用してしまい、1.5円なら1.5%弱とイメージしてしまう。しかし、トルコ・リラであった場合には12.3%にもなっていることを認識していない場合も考えられるのだ。

為替手数料のコスト計算では、対円での水準で割り、パーセンテージに引き直して考える必要がある。

【債券購入時の注意点】
債券の売買手数料は無料や安価に設定されているのが一般的だが注意点がある。債券は主に「相対(あいたい)」による取引のため、セールスー時点での債券価格自体が既に上乗せされている。プロの相対取引マーケットで97のものが、例えば100や103でセールスされているイメージだ。マーケットに直接携わっていない担当者は、本部から提示された水準が既に上乗せされた水準であることに認識が無く、「債券の手数料は安価だ」と信じてセールスを行っている場合も多いだろう。担当者に悪気があるわけではないが、上乗せのコスト高は投資家が負担することになる。

新興国債券への投資をどう考えるべきか

今回のような1日で20%も為替が変動する、新興国債券への投資をどう考えるべきなのか?筆者は著書で外国株や日本株、REITなどの投資カテゴリーに対するコメントを行っている。新興国債券については以下のコメントを挙げた。

・カントリーリスクが大きい
・リスクの割にリターンが優れているとは言い難い
・流動性(換金性)のリスクが大きい 

そして、著書の前半で述べている「iDeCoで選択すべき低コスト投信」のラインナップには、「新興国債券」カテゴリーからは1件もノミネートしていない。

トルコ・リラ、通貨選択型を選ぶ理由は?

トルコ・リラ通貨を選択した投信の価格は大幅に下落している。そもそも、通貨選択型投信はわかりにくい構造で、投資家がリスクを正しく判断できないから販売員に「任せる」と思うような商品構成だ。自己の判断をあきらめさせて契約する目的としたのでは?と疑ってしまう。

行動経済学的にいえば、複雑な投信は「情報過多」の状況に投資家を置く。投資家自身では複雑でとてもリスクが何なのかを判断できなくなってしまう。自分では判断できない状態を「恥ずかしい」と考えてしまったり、「断わると悪い」「セールスが勧めてきた」「よくわからないから、それで」と思ったりする。その結果、判断を放棄して投資決定してしまう場合も多いのではないだろうか?

自身で判断できないので販売者が勧めてきた、という「責任転嫁」に逃げたい気持ちがあっても、損失発生の場合、その損失は投資家が抱えるのであって、担当者ではない。正しい知識を持って自分の身を守ってほしいと思う。

※注:今回採り上げた債券や投信、為替に対して売買推奨や、今後の見通しを述べたものではない。また特定の金融機関との取引を勧めるものではない。

文・安東隆司(RIA JAPANおカネ学株式会社代表取締役)/ZUU online

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